「っ、…は」
口を離すと、ゴールドさんは短く息を吸い込んだ。少し潤んだ瞳が俺を悔しそうに睨み付けてくる。
俺はそんなことにはお構いなしに、再び唇を重ね合わせた。
ゴールドさんの手は、最初こそ俺を退かそうとしていたが、今は俺の服をぎゅっと掴んでいる。
そして、そのまま何度もリップ音をたて、口付けをする。
「タクシ、く…っん、」
下を向き、やめてくれと言うように、ゆるく首を振るその人の首筋に顔をうずめると、その色素の薄い白い肌に噛みついた。
ぅ"あ、と横から呻き声がしたが、それには構わず歯を立てる。
ガリッという音と同時に、血の味が口のなかに広がり、俺は眉をしかめた。
「…ごめん、大丈夫か?」
口を離しても、なにも反応がないゴールドさんに、俺は心配になって話しかけた。
「なんの…つもりだい…」
呟くようにゴールドさんは言う。
「なんのつもり…?何が?」
「とぼけないでくれるかい?」
俺が半笑いしながら答えれば、キッと睨まれた。
紅い瞳が、不安そうに揺れている。こんなことをされたことがないのだろう、しかも俺は男だ。動揺するのも仕方のないことだろう。
「キスしたこと?」
「……。」
俺は笑みを崩さないまま、懐から煙草をとりだし、火をつける。
「俺も、よくわからないんだよな…。なんか、あんたがすごい可愛かったから、さ。」
「…ふざけてるのか?」
なかなか着かない火にイライラしながら、へらりとそういえば、またもや冷たい返事が返ってくる。
俺は煙草を諦め、箱を懐に戻すと、ゴールドさんのことを壁に押し付けた。
「ふざけてなんかいないぜ?可愛いと思ったからキスした…それだけじゃ、駄目かな?」
我ながら理不尽な理由だな、と思いながらゴールドさんの耳元で囁けば、よくないに決まってるだろう、と押し返される。
それでも離れまいとすると、今度はヒールで爪先を勢いよく踏まれた。
「いっっ…だ!」
地味に痛い。俺はその場にしゃがみこむ。
「下らないことで、私の限られた時間の邪魔をしないでくれるかい?」
ゴールドさんはそう冷たく言い放つと、俺に背中を向けてどこかへ歩いていってしまった。
「素直じゃないんだからなぁ…。」
綺麗な金色の髪から覗く耳が赤くなっているのを、当然俺が見逃すはずもなかった。
end.