「あ、ごめんね円堂くん、見えなくて触っちゃった」
「おう、別に気にすんなって!」
「簡単に許すな円堂守、どう考えてもわざとらしい」
「やだなぁ、わざとじゃないって。暗くて見えないんだよ」
「確かに暗いもんなー」
「っ!私の尻を触るな!」
「あれ、間違えちゃった。なんで急に円堂くんの前に来たの風介…」
「貴様ぁ!」
「おいテメェ等!うるせぇから電気付けやがれ!」
「やだなぁ、晴矢が消せって言ったんじゃないか」
「まったく我儘な奴だなキミは」

 ぱちん。灯りがついて部屋に散らばる菓子だの図鑑だの携帯だのが鮮明に見える、円堂に抱きつく基山を視線で殺しながら俺は溜め息を吐いた。

「つーか何で俺だけ準備させられてんだよ」
「だって晴矢が一番張り切ってたじゃない、ねぇ風介」
「円堂守が来るからってキモチワルイくらい浮かれてたな」
「うるせぇ言うな!」

 俺だって円堂とイチャイチャしてぇよ、なんなんだ畜生。しかもバラすな!これじゃ俺が遠足前日の小学生みてぇで恥ずかしい奴じゃねえかよ!

「早く用意してよ晴矢ぁ、俺も天体観測久し振りでわくわくしてるんだから。ねぇ円堂くん」
「うん俺さ、星観察するの小学校の宿題以来だからすっげぇ楽しみなんだ!」
「だ、そうだ。遮光カーテンだから灯りがついてても大丈夫だろう、早くしろ」
「なんでこんなグタグダ言われなきゃなんねぇんだよ…」

 もう怒んのも疲れてきた、さっさと用意して早く寝よ。遮光カーテンの向こう側は別世界みてーに寒い、僅かな光を受けて鎮座する望遠鏡は富士山麓の静寂を思い出させた。…頭振って邪念を振り払う、星明かりだけが頼りだ。暫く慣れねぇ暗闇で手探りな準備してたら、隣でなんかがモゾモゾ動いた。

「ぷはっ。ごめんな南雲、俺望遠鏡とか機械類触ると壊しちゃうから手伝えないんだけどさ」
「…不器用だもんなお前」
「役に立てないけど、隣に居させてくれよ、な?」

 ひょっこりカーテン裏に潜り込んできた円堂に、よく基山から逃げて来れたなとか他人事みたいに思った。暗闇に慣れ始めた目はぼんやりとだが、円堂の顔を認識できるぐらいにはなってる。

「…いいけどよ、別に」
「へへ、ありがとな」

 満足気に笑うのが空気で伝わる。あっちいけとか捻くれた事言わなかったのは、なんつーか…嬉しかったからだ。呼吸まで聞こえる位近い距離、努めて平然を装うが身体はクソ正直。月面のクレーターにピントを合わせようとしてんのに手先が狂う。

「南雲、」
「あん?」
「ここら辺が鼻か?」

 顔を上げて円堂を見ると急に鼻を摘まれた、いてぇよ。そう言えば円堂はなんだか知らねぇけど笑う。

「じゃあここが唇だな」

 なんなんだよ、本当に。顔をぺたぺた触ってきやがる円堂が何を企んでんのか、全く分かんねぇ。唇をなぞった指先をぱっくり食ってやった。
 慌てて指を引っ込抜いた円堂の顔はよく見えねぇけど、戸惑ってんのが空気で分かる。むくむくと膨れてきた悪戯心。

「っ!」
「くすぐってぇよ」
「な、ぐも…」

 片手で円堂の後頭部を捕まえて、思いっきり顔を寄せてやる。いつもキスすんのは俺からで、これが合図みてぇなもんになってんだが、今日に限って意地悪したくなっちまった訳だ。唇が触れるほんの数センチ手前で止めてやれば、訳分かんねぇとでも言いたげに視線を泳がす。
 なんで、唇がそう動いて俺のセーターを握ってきやがった。

「ははっ、期待してたのかよ」
「ち、ちが…」
「んなにキスしてぇの?」

 頭を拘束してた手を離してやってぐしゃぐしゃと髪を撫でてやれば、暗闇で円堂の戸惑った目が俺をじっと見てくる。

「…キス、したい」

 自分でそう言わせようと仕向けた訳だが、なんか興奮した。もっかい後頭部を拘束して、ぐいっと唇を押し付けてやる。触れるだけの色気もなんもねぇただのキス、円堂はこれが何よりも好きなんだって俺は知ってんだが。

「円堂…」
「…ん?」
「もっとしてぇ」

 窓ガラスに円堂を押し付け舌を突っ込んでやる、俺の方がもう我慢できねぇんだよ…カッコ悪いとかこの際どうでもいい。空いた片手で首筋を擽ってやりながらもっともっと奥まで。歯列をなぞって頬の内側を擽って舌に吸い付いて、好き勝手やってたら円堂がまた俺のセーターを握り締めた。

「っは…苦しい、ばかっ」

 無造作に服の袖で口を拭く円堂が、何を思ったのか俺に抱き付いてきやがった…今日も抑えられそうもねぇ。



カーテン裏で戯れを
 星の綺麗な夜でした。


(なにしてるのはるや)
(みせつけか、いいどきょうだな)
(ち、ちがっ…これは)
((せいさいだ/ね))
(な、なぐもー!)


110304

素敵な企画さまに提出。