なんだって言うんだ、私はヴェーダに選ばれたマイスターの内の一人なのに。失敗は許されないけれど、訓練での失敗ならばすぐに次回に生かしていかなくてはならないのに。なのになんで、私はこんなにも気分が重いのだろう。なんでこんなにも、辛いんだろう。
「まだここにいたのか」
「ティエリア…」
膝を抱え込んで、そこにうずめていた顔を少しだけあげる。声でわかったけれど、そこにはやはり同じマイスターの内の一人、ティエリア・アーデがいて、無表情のまま私を見ていた。
「反省か?」
「そんなとこ」
「長すぎだ」
「…うん」
いつもなら言い返せるのに、今はそんな言葉も浮かばない。それが自分に余裕が無いということの大きな裏づけのように思えてまた胸がチクリと痛む。私だけがいなくなるなら、構わない。だけど…。
「不毛だな」
「ティエリアには、そう思えるかもね」
始まってしまったテロ行為。矛盾を掲げて出撃する私たち。世界は私たちを目の敵にしているから。だから、だからそんな中での失敗はあらゆる方向へと悪循環をもたらす。だから私たちに失敗は許されないし、ミッションは完璧にコンプリートしなくてはならない。そんなのここに入る前から承知の上だ。
だけど、私が一番心配なのは、世界単位の話じゃなくて、もっと小規模な、個人の話。
私が失敗したら、私のせいで仲間が死んでしまうかもしれない。長い間ともに時間を共有したわけでもないけど、お互い信頼し合っているのかもわからないけど、少なくとも私は本当に、ここの人たちが大切なんだ。だから…
「でもね、私たちが介入した先の人だって、家族や仲間がいるでしょう」
「散々人を殺しておきながら、自分の周りだけはなんて…自分勝手にもほどがあるよね」
考えを巡らせていくほど、自分にとって都合の悪いものばかりが浮かぶ。
戦争を根絶させるなんて、武力で介入するなんて、でも、実際に私はそれに手を染めている。ああ、ロボットだったら良いのに、そうしたら余計なことなんて考えないでいられるのに。なんてとりとめも無いことを考える。
一度の失敗でこんなにも自分が不安定になるなんて、と自嘲気味に笑いを漏らせば、少し遠くにティエリアの後姿が見えた。
「やっぱり、こんなやつじゃ、だめだよね」
ティエリアは特別強い人だもん。私なんてきっとお荷物だし、なんでヴェーダに選ばれたのか疑問に思ってるんじゃないかと思う。だからそんな私の言葉は、きっと彼にはどうでもいいこととしてしか届いていないんだ。
私からしたら、ティエリアだって仲間の一人で、私の大切な人に入っているのに…。
「ティエリアの、ばか」
「誰が馬鹿だ」
やっぱり振り向かずともわかるけど、それでも勢いよく声のしたほうを振りむく。そこにはピンクのカーディガンが恐ろしく似合う青年が立っていて、奇しくも髪を掻き揚げるその仕草に見とれてしまった。
「な、なんで…帰ったんじゃあ…」
「飲み物を買いにいっただけだ、」
差し出されたのは温かいココアで、もう片方のティエリアの手にはブラックコーヒーが握られていた。ありがとう、そう言って受け取ればティエリアは真っ直ぐ前を向いたまま、私の隣に腰を下ろした。
「お前は、優しすぎる」
眼鏡のブリッジを人差し指で押さえながらそう言ったティエリアはやっぱり前を向いたまま。私はというと渡されたココアの温かさに泣きそうになっていた。そこでそんな言葉を言われて、いつもじゃありえないけど、なんだかティエリアに慰めてもらっている気分。
「ティエ、リア…」
「まずはその汚い顔をどうにかしろ」
「ありが、と…照れ屋さん」
「一言余計だ」
流した涙はキミのため