大好きだから、大切だから、私にとってかけがえのない存在だから。どんな言葉を並べたところで、きっと彼は私の言うこと何て聞いてくれないから。だから私は、何も出来ない自分の無力さを恨むんだ。
 彼の性格が最近丸くなったこと、それが私は嬉しくて、でもその所為で彼が普通の人が感じる気持ちを味わって、それで押しつぶされそうになっている事が、今はたまらなく哀しい。

「嫌、だ」
「…なにがだ、」

 わかってるくせに、言ったら彼は少し笑った。こんな柔らかい表情、初めじゃ考えられなかった。きっと彼も私の言いたいことをわかってる、それでも行くと決めているから。だから私には何も出来ない。ぐっと涙をのんで、伸びたつめが手のひらに食い込んだ。ちゃんときっておけばよかった。

「計画通り、かな」
「そうでなくとも、私は出る」

 ロックオンの為に、そう言ったティエリアの目は一点の迷いもなくて、凄く胸が締め付けられた。ガンダムが二人乗りだったら良かったのに。そうしたら私たち、最期までずっと一緒にいられた。でも、私は別に死ぬつもりで行くんじゃない。あくまでも、世界を変えるため。そして、大切な人を護るため、なんて。女の子が言う台詞じゃない。

「帰ってきたら、抱きしめてね」
「………」
「そんな思いつめた顔、しないで」

 言ったところで、そんな約束意味を成さないというのに。それでも私の気持ちの問題だった。でもそれは、その後のティエリアの行動によってすぐさま意味を成さなくなる。そう、ティエリアは抱きしめてくれたんだ。帰ってきてから、ではなく、今。その腕の力は凄く強くて、力を入れすぎて震えている。恐る恐る手を背中に回せば、ティエリアは私の首筋に顔をうずめた。


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