負けた。負けてしまった。負けに不思議なし。言ってしまえば簡単なこの言葉も、やはり悔しいことに変わりはない。後悔先に立たず、先輩たちはよくやってくれた。俺が、打たれてしまったんだ。

「榛名君」
「名前、さん」

 気づくと数メートル先に名前さんがいた。名前さんが応援にきてくれていたことは知っていた。それなのに試合終盤は名前さんを見ることすらできなくなっていた。今も、こうして名前さんが来てくれなければきっと会いにもいかなかっただろう。歩み寄ってくる名前さんに涙の跡をみられたくなくて、咄嗟に俯く。

「お疲れ様」
「あっす」

 名前さんの言葉に、俯きながら端的に答えることしかできない。名前さんの白いサンダルを履いた足元だけが視界にうつる。

「顔、あげてくれないの?」
「あ、いや……その」

 いきなり直球でそう言った名前さんは、そのまま両手で俺の両頬を挟むようにして触った。ひんやりとした手が気持ちいい。

「あげたくなったら、顔あげて」
「は、い」
「負けちゃったね」
「……はい」
「でも、」

 私は感動したの。
 名前さんのその一言は、俯いているからわからないけれど涙声に聞こえた。泣いて、いるのだろうか。

「私、最初はちょっと羨ましかった。ううん、嫉妬してた。だって私がいた時よりも野球部はずっとずっと楽しそうで、それでいて榛名君がいるんだもん。羨ましくてキラキラしてて、私には手が届きそうもなくて。あの中に入りたいって、榛名君と話すたび、メールする度、見る度に思ったの。」

 太陽は容赦なく俺と名前さんを照りつける。地面に二人の影ができた。

「皆格好良いんだけど、榛名君は特別格好良く見えちゃうの。榛名君がいたら、ずっとずっと負けないって思えちゃうの。これって凄いことだと思わない?」

 言葉の意味を理解できないほど俺も馬鹿じゃない。ハッとして、顔をあげると、涙目の名前さんが笑っていた。その瞬間、堪えていたものが一気に込み上げてくるのがわかった。悔しさと悲しさと、喜び。流石に二度泣くのはと思って、必死にそれを飲み込んで名前さんに向き直る。

「名前さんに、ずっと勝ちましたって報告できるようになりたいです」
「うん」
「名前さんが、特別です」


もっと強くなりたいです
 私も、榛名君のこと特別だよ。
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