「榛名が珍しく何か悩んでおります」
「うっせーな」
携帯を手に硬直状態の俺を秋丸が茶化す。
俺だって悩む時くらいあるんだよ。秋丸はと言うとまあなんとなくわかるけどね、と言って手に持っていたアイスをかじった。なんでわかんだよ、と言おうとして、それもまあ仕方がないことに気づいて口をつぐむ。なぜなら俺はあの日、皆がいる前で名前さんのアドレスを聞いたのだ。しかも、赤面しながら。公開告白をしたようなものだ。先輩たちからは当たり前のように茶化され、唯一宮下先輩からは頑張れ、と応援の言葉をもらった。
「で、名前さんから返事きたの?」
「ああ、送って半日たってから返ってきた」
一週間前、名前さんからアドレスを貰ったその日の夜にメールを送った。その文面も何度も何度も推敲して、アドレスを登録してから、メール送信ボタンを押すまでに三時間くらいかかった。それから翌朝に名前さんから返事が返ってきて、そこから毎日、メールを続けている。一日三通くらいだけど。
メールの話によれば、名前さんは昨日試験期間を終えたようだった。大学に行ってもやっぱり試験はあるんだな。
「メール続いてんの?」
「ああ」
「なら何悩んでんの。俺はてっきり返事来ないから悩んでるのかとばかり」
「加具山先輩が言ってたんだけどさ、」
「うん」
「名前さん、彼氏いるんだわ」
一呼吸置いた後、へえ、と返した秋丸。まあ、そういう反応になるわな。メールも他愛ないことではあるが楽しく続いている。一見、良いように事が進んでいるように見える。しかし、距離が縮まれは縮まるほど、その彼氏がいるという事実が俺を責め立てる。
「でも、榛名は好きなんでしょ?」
「ああ……え? はっ!?」
「今更?きっとみんな気づいてるよ」
榛名が好きなようにしたら?と秋丸が言ったのと同時に、先のコンビニから名前さんがでてきた。驚いて言葉を失う俺とは逆に、秋丸は、あ、名前さんだ。と声を出す。
「あ、榛名君と秋丸君!」
「お久しぶりです」
「うっす」
会いたかった。姿を見たかった。そう思っていたはずなのに、どうしてだろう、うまく言葉が出てこない。
「じゃ、俺ちょっと用事あるんで…」
「そうなの? じゃあまたね」
秋丸に練習後に用事があったことなんてない。きっと気を使ったのだろう。ばいばーい、と秋丸に手を振る名前さんの後ろ頭を見ながら、俺はどうしたものかと頭を悩ませた。
「練習だった?」
「あ、はい。そでした」
「そっか、お疲れ様」
「名前さんは、何してたんスか?」
「家でDVD見て、アイス食べたくなったから買いに来たの」
ほら、と言って白いビニール袋の中にある二本のアイスを俺に見せる名前さん。
「家、どっちっすか?」
「ん? 駅の方だよ」
「じゃあ、俺もそっちなんで送ってきます」
「本当?ありがとー」
榛名君と帰るとか、なんだか新鮮。手に持ったビニール袋をぶんぶん振り回す名前さん。俺はというと、もうちょっと長く一緒にいられる喜びと、どうしてアイスが二本なんだろうというくだらない嫉妬のようなもので、頭がどうにかなりそうだった。
「そういえば、試験どうだったんすか?」
「んーなんとかなりそう、かな! それにもうすぐ夏休みだし、夏休み入ったら海にプールにお祭りでしょ? 今からわくわくしちゃう。
そういえば、次準々決勝だっけ?凄いね!」
「次は、春日部っす」
「絶対勝てるよ、頑張ってね!私も応援しにいくから」
「ま、まじすか!」
名前さんが応援にきてくれる。それだけでもう、さっきまでのモヤモヤがどうでもよくなった。秋丸も言っていたように、俺のしたいようにしたらいいんだ。
「あ、あの!」
「ん?」
「もし、次勝てたら…」
「うん」
「お祭り、一緒に行きませんか」
「うん、いいよ」
テンションの赴くままに、言葉を発した後少しやりすぎてしまったのではと思ったその直後、名前さんはいとも簡単に了承の返事をくれた。ま、まじすか!?と驚きと喜びでよくわからなくなっている俺に、名前さんはうん、お祭り楽しみだね、といって笑った。やっぱり俺は俺のしたいようにするしかないんだ!
「お祭り、楽しみにしてるね」
気に入ってもらえて嬉しいです
榛名君て犬見たいでなんか可愛い。