格段に厳しくなった練習メニューにも、皆の気持ちがだんだん慣れてきた。強い日差しも相変わらずな中、宮下先輩と大河先輩が二人で個人メニューの相談をしているところに、ふらりとあらわれてそれに参加している女の人が一人。先輩たちの友達だろうか。それとも、誰かの彼女か…いや、大河先輩以外に彼女がいるなんて話しきいたことがないし、第一遠目でそこまでわからないが、かなり綺麗な部類だ。話題にならないわけがない。
 考えても納得いく結論に辿り着けなかった俺は、たまたま近くにいた加具山先輩に疑問をぶつけてみた。

「ああ、名前さん? 元マネージャーのOBだよ」

 俺らの二個上だから今大学二年生かな、といとも簡単に答えを教えてくれた加具山先輩。そうか、宮下先輩の先輩ということか。

「もともと綺麗だったけどさ、卒業してから余計綺麗になったと思う」
「そ、すか」
「…でも、彼氏いるからな、名前さん」

 にやにやと、それは宮下先輩と大河先輩のことを教えてくれたときのように面白そうに笑う加具山先輩に、そんなんじゃないっすから!と恥ずかしさを振り払うように大声で否定をした。

「ほらそこー!
まだ休憩じゃないよー!」
「は、はいっ!」

 俺の声に気付いたのだろう、宮下先輩に怒られた俺と加具山先輩はそのまま急いで練習に参加した。
 そうだよな、普通彼氏くらいいるよな。綺麗だし、大学生だし。さっきの加具山先輩の言葉を思い出して、それと同時にまた恥ずかしさが込み上げてきて、一心不乱に練習に取り組んだ。



「お疲れ様」
「お疲れ様っす」

 あれ?と、いつもと違う声に気づいて顔を上げると、そこには先程話題にしていた名前さんの姿があった。

「は、初めまして!」
「初めまして、榛名君だよね?」
「はっはい!」
「涼音からいろいろ話は聞いてるよー」

 笑った名前さんは、そのまま俺の腹を人差し指でさしてきた。

「うあ、なんすか!」
「すごーい!腹筋ばっきばきだね」

 涼音からね、榛名君の筋肉が凄いって聞いてたから一回触ってみたくて、と笑った名前さん。対する俺はどうしていいのかわからず、くすぐったい刺激に耐えることでいっぱいいっぱいだった。

「名前さんは宮下先輩たちの二個上なんすよね?」
「うん、そうそう」
「今日はどうして来てくれたんスか?」
「大会近いから、応援?かな」

 差し入れ持ってきたから、後でみんなで食べてね。そう言って笑った名前さん。俺の三つ上なのに、どうしてだろう。放っておけない気持ちになるのは。

「また、来てくれますか?」
「え?そうだなー試験もそろそろ終わるし、多分来れるかな」

 じゃあそろそろ私はお暇しますね、そう言って宮下先輩の方へと向かって歩きだした名前さん。なにか言わなくちゃ、このまま終わりにしていいのだろうか。よくわからないけれど、どういう訳か気持ちが焦って、意図せず名前さん!と声をだしてしまった。当たり前だけど、それに振り向く名前さん。うわ、俺何も考えてねえ…!

「あ、あの」
「ん?」
「あ、アドレス! 教えて、ください…」
「ああ、いいよー」

 そのままポケットから油性マジックを取り出して、俺の手の甲に英数字を羅列させる名前さん。その距離や、手の感覚に恥ずかしくなって顔をそむける。それでも名前さんの良い匂いが香ってきて、顔が熱くなる。

「はい、これからも頑張ってね!」
「はっはい!」


俺、努力しますから
一目惚れって、こういうことをいうんだ。


「にしてもお前、ああいうタイプ好きだな」
「ど、どういうことっすか」
「野球部マネージャーで、ちょっと天然っぽくて、可愛くて、巨乳」
「いや、榛名は単なる巨乳好きとみた」
「町田先輩まで……!」
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テーマ「人外ファンタジー」
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