「本当に私馬鹿だと思う」
「同感だな」
「もう阿部に何言われても反論できる気がしない」
「同感だな」

 だって水谷を好きになるなんて…!
 意気消沈して机に顔を突っ伏す私に、頭上から馬鹿としか言いようがねえな、と言葉の暴力をしかけてくるのは言わずと知れた大魔王の阿部隆也氏。なんで阿部にこんな話をしているのかと言うと、阿部に決定的瞬間を見られてしまったからである。

「にしてもわかりやす過ぎるだろ」
「はい、返す言葉もありません…」
「水谷が馬鹿じゃなかったら完全に気付かれんぞ」
「はい、そこは馬鹿で良かったと思います」

 数日前の昼休み、水谷が購買でパンを買いそびれたらしく意気消沈しているところに持っていたパンを一つ恵んであげたところ、そのお返しに…と今度の日曜日にずっと私が気になっていた映画を見に行こうとチケットをくれた水谷に、私は必要以上の反応をしてしまった。
 そんなある種青春の一ページな瞬間を、にやにやと傍観していた阿部。

「私だって、初めはありえないって思ってたんだけど」
「おー」
「なんか日を追うごとに意識?しちゃうみたいな…」
「へえ」
「…つまりは、なんか」

 いつも馬鹿にしてた水谷が好きになってたってわけか。と続けた阿部に、まさに図星だと言わんばかりに一つ縦に頷く。
 あーこんな厄介なことってない。好きになった相手も相手だけど、こんなことを一番知られたくない相手に知られてしまった。
 ああもうこれから絶対ネタにされるんだ…!と覚悟を決めた瞬間、まあ、と阿部が言葉を継ぐ。

「まあ良いんじゃねーの?」
「え…何?」
「まあ相当頭きてんじゃねえかとも思うけど、」

 あの馬鹿にはこのくらいの馬鹿が似合ってるよ、そう言った阿部は、がたっと席を立ちじゃあな、と教室を後にした。
 なにこれ、なにあいつ、なに考えてんの!
 絶対に馬鹿だとか笑いもんだなとか言われると思ったのに。まあ言われたようなものだけど、でもこんな言葉をかけられるだなんて思わなかったのに…!
 どうしようどうしよう…と混乱する頭を抱えた私は、ベランダにずっと水谷がいたことなんて全然知らなかったんだ。


馬鹿と馬鹿と策士
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