クラスメイトの高瀬君。野球部でピッチャーで顔が良いからミーハーな子達からは少し噂されるような存在。
一年の時から同じクラスで、文化祭の準備とかでは話したりもしていたけどそこまでの仲ではない。
ここまでが私の高瀬君に関する情報。案外少ないものだ。
そんな高瀬君から昨日、メールがきた。
前に私と同じ委員をやったことがあってアドレスを知っていた仲沢君から聞いたという前置き付きで。そういえば仲沢くんも野球部だっけ。
何か連絡があるのだろうか、そんな考えとは裏腹に少し過剰に期待してしまう自分がいて。
高瀬君のメールは「突然ごめん。利央からアドレスききました。」の短い二文。どうしてだろうとかいろいろ思うことはあったけれど、私も私で無難に返事を返して。
それから少しメールのやり取りは続いて、高瀬君が野球部でピッチャーなことも教えてくれた。知ってるよ、私は帰宅部で図書委員です。そう返せば、高瀬君からも知ってるよ、と返された。
好きな科目とか先生、テレビの話をして、12時頃私が返した所でその日のメールは終わり。
そんなことがあったのが昨夜。そして月初めの今日、私のクラスは席替えとなった。そしてそして、私は1番後の真ん中で、隣があろうことか…
「高瀬ー!お前一式忘れてんぞ!」
「うわ!わっ悪ぃ!」
バタバタと立ち上がって元いた席から教科書ノートの類一式を持って帰って来た高瀬君。私はと言うと、さっきからどういう訳か落ち着かない。いや、緊張していると言った方が正しいのかも知れない。
とにかく昨日急にメールするようになった相手と隣になるなんて、もし神様がいるなら人が悪いと思う。
「よ、よろしく」
「え、あこちらこそ…」
こちらを向いて俯き加減でそう言った高瀬君に、つられて私も反応する。メールではいろいろと話せたけど、直接となるとどうしてか思うようにいかないな。
わいわいと席替え後特有の騒がしさに教室が包まれている中、私たちの周りだけ時が止まったみたいに静かで。
その時、視界の端に私の携帯が光るのを見た。や、やったこれで携帯をいじってる人になれる。そう思ってディスプレイをみると、そこには昨日登録したばかりの高瀬準太の文字。
驚いて開くとそこには「隣になれて嬉しい」の一文。絵文字も顔文字も句読点もない、その一文。
「わ、私も嬉しい…?」
つい口をついたその言葉に恥ずかしさを覚えて訂正しようと顔を勢いよく高瀬君に向けると、高瀬君はびっくりしたような顔をすぐさま崩して噴き出した。
「ぎ、疑問形かよ…!」
目尻に涙を溜めて笑う高瀬君を見ていて、なんだか私も可笑しくなってきて。
暫く私と高瀬君で引きずるように笑っていると、収まりかけてきた高瀬君が息を荒くしながら口を開いた。
「きっと俺の意味と違うけど、嬉しいよ」
その距離およそ50センチ