※黒執事7巻の最後あたりの派生ネタ。


 エリザベス様がいらっしゃったというのに、シエル様は一向に帰っていらっしゃいません。
 エリザベス様の趣味に彩られるお部屋と私たち使用人。いい加減にしてくれといわんばかりのバルドさんを小声で宥める。

「エリザベス様、もう遅い時間ですし、使用人たちも明日の準備等ございますので…」
「嫌よ!シエルが来るまでまつの!」
「でもエリザベス様ももう寝ないと…」
「いいわ!じゃあ名前だけ残ってわたしと遊んで」

 それまで一緒にエリザベス様を宥めていたバルドさんとフィニとメイリンはその言葉を聞くや否やあー忙しい忙しい、なんてわざとらしくそう言い残して各自自分の持ち場へと帰ってしまった。なんて薄情な人たちなんだ…!

「名前名前!これ着てこれもつけて!私とお揃いにするの!」

 楽しげに持参した衣装やアクセサリー等の小物類を次々に私に押し付けるエリザベス様。もう仕方ないか、と腹を括って身に着けたり…と完全に彼女の着せ替え人形になっていると、暫くして時間も時間だからか、エリザベス様はおとなしくなってきた。

「眠いのでしたら、ご用意しておりますお部屋で…」
「いや、シエルが帰ってくるまで待つの」
「そういわれましても…」

 まあ寝てからお部屋にお連れしても大丈夫だろう、と目をとろんとさせたエリザベス様のお話に相槌を打つ。

「シエルは可愛いから、もっと可愛いものを身に着けるべきだとおもうの」
「エリザベス様はお優しいですね」
「名前もよ、」
「はい?」
「名前も毎日お洒落して、今みたいにいっぱい可愛い服きて、それで…」

 まるでねじ巻き式の玩具の最後のように、すうすうと寝息をたてはじめたエリザベス様。
 その寝顔を見ながら、さっき頂いたお言葉をもう一度頭の中で再生する。
 ここに来てからいい事ばかりだ。私を含め、ここの使用人は訳アリの人ばかりで、そんな私たちをこんなに素敵なところへ連れてきてくれたシエル様には、本当に感謝しても仕切れないほど。
 こんなにフリルやレースが施された可愛い服も、キラキラ光るアクセサリーも、シルクのリボンも、あの時は着た事はおろか、見たことだってなかったから。
 だから先ほどのエリザベス様のお言葉は、顔には出さなかったけれど本当に嬉しかったんだ。そっとエリザベス様の髪の毛を一撫でしてから、風邪をひいてもらっては困るのでお部屋にお連れしようと抱き上げようとしたその瞬間、庭の方からあまりよろしくない音がした。

「…フィニ?」

 そして暫くとしないうちに、屋敷のすぐ近くから複数の足音が聞こえた。
 ああ、シエル様が留守の時には誰もお屋敷に上げてはいけないという命なのに。
 エリザベス様を急いでソファーに寝かせてから、ゆっくりとした動作でお屋敷の玄関へと向かう。ああ、折角エリザベス様が見立ててくださったこのお洋服を汚さないようにしなくては。


侵入者発見!
 私たちはシエル様とこのお屋敷をお守りするためにここにいるのですから。

:)090627
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