「聞いてよもう沙慈ったらね…!」
「はいはい聞いてるよ」

 ちょっとちゃんと聞いてよね!
 本日もう何度目かもわからないセリフを言ってから、ルイスは更に続けた。確かに沙慈はちょっと奥手だもんねーと適当に返せばちょっと沙慈って呼び捨てやめてよ!なんて。
 もうわかったわかった、だから惚気なら当人同士でやってほしいものだ。

「それでね、沙慈ってば本当にバカなの、私が何度…」

 ぷつんと場面が切り替わって、私は無機質なステンレスと思しき机の上。ああ寝てしまったのか、ということと随分懐かしい夢を見ていたことに気づく。
 四、五年前のことだというのに、もう凄い昔のことのように思えてしまうから不思議だ。あのころは迷惑だと思っていた惚気話も、今となっては懐かしく、また楽しい思い出。

「寝ていただろう」
「嫌だなあ違いますよ」

 涎が垂れている、その一言に慌てて口元を拭うけれど予想していた感触はない。だまされたことに気づいて今さっきこの部屋に入ってきた眼鏡の美人を見上げれば、当の本人は楽しそうに笑っている。

「どうせ夢でもみていたのだろう」
「よくわかりましたね」

 実はとても懐かしい夢をみていたんです。
 目の前の書類の端を指でいじりながら、大佐の反応をうかがえば、職務中に堂々言うことではないだろう、と至極彼女らしい返事がかえってきた。

「今じゃ、もう考えられないくらい楽しかった頃の夢です」

 もうちょっと見ていたかったな、そう漏らせば大佐は少し悲しそうに笑った。その顔をみて、あの煩かった親友の泣き顔が浮かんだ。
 昔はいつも泣いたり笑ったり、忙しいやつだったのに、今はもうそんな素振りすらない。久しぶりに会ったのに、目さえあわせてくれなかった。はじめは信じられなくて話しかけてみても、用がないなら失礼します、だなんてまるで他人行儀で。

「彼女にもいろいろとあったのだろう」

 今は見守ってやれ、そう言った大佐は私の頭に手をおいた。ルイスだなんて一言も言っていないのに、まるで大佐には私の頭の中が丸見えみたいで。

「わかったなら寝ていた分もきっちり働いてもらうからな、覚悟しておけ」
「たっ大佐の鬼…っ」

 何か言ったか?と不敵な笑みを浮かべる大佐に怖くなってぶんぶんと首をふれば、大佐はじゃあ、とざっと三ケタの枚数はありそうな紙の束をドンと机上においた。

「戦術に必要な個人データからなにからなにまで……全て目を通しておけ」
「……冗談きつく…」

 ないですよねー。大佐の表情を伺ってから、観念したとでも言うようにその紙の束を自分に引き寄せた。
 小難しい文字や数字の羅列に、さっき寝たばかりなのにまた睡魔が襲ってきそうだ。だけど大佐なりに私を気遣ってくれているのがわかるから、とりあえず今はこの文字数字の羅列を頭に叩き込むことから始めたいと思います。


またいつか、
 あんな毎日が帰ってくると信じて。

:)090328


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