「おや、珍しいね君がここにくるだなんて」
「あなたに会いにきたわけじゃないですからね」

 知ってるよ、ティエリアでしょ?
 楽しそうに笑ってそう言ったリジェネ先輩に、きっとこの後嫌味の一つでも言ってくるんだろうなと身構える私。もう何を言われてもたいていのことでは動じなくなってしまったけれど、それでもやっぱり癖のようになってしまったこの心構えは変えられない。

「最近ティエリアの帰りが遅いから、心配になってちょっと携帯を、ね」
「最低ですね、流石先輩です」

 心配だなんて絶対にとってつけた嘘だ。内心ティエリアに何があったのか、そしてどうそれをからかう方向に持っていくかで楽しんでいたに違いない。

「そしたら吃驚したよ、未送信ボックスに君宛てのメールがいくつかあってね」

 ああもう読み上げたいくらいだよ。
 くすくすと笑いながらそう言った先輩は、君に教えてうろたえるティエリアを見るか、それとも言わずに気になって仕方ない君を見るのか…どっちも捨てがたいね、なんて言ってから玩具を見つけた子供のような顔をした。
 全くこの人は自分の楽しみのためなら常識なんてものを簡単にないものとするから怖い。こんな兄を持ったティエリアが不憫で仕方がない。

「もう先輩の性格が修正不可能な事はよくわかりました。
それよりティエリアを出してください、このノートを返したいんです」
「君は可愛くないよね、まあそんな弄り甲斐のあるところは飽きなくていいと思うよ」
「先輩に褒められても褒められた気がしませんね」

 そうだ、本日の目的は別に先輩とこんな嫌味ばかりのおしゃべりをしにきたわけじゃなくて、テスト前にティエリアに借りたノートを返すためだ。テスト前に散々勉強を教えてもらっておいて、その上ノートを返すことも遅れてしまったら奴になんていわれるかわかったもんじゃない。ティエリアも一応先輩の弟なのだ。確かに先輩の足元にも及ばないけど(及んで欲しくもないけど)彼もまた、嫌味を言うことが得意でもある。

「君はティエリアが何を送ろうとしていたか気にならないの?」
「べっ別に私先輩みたいに悪趣味じゃないんで」
「ふーん、でも…さ」

 君はティエリアに愛の言葉を囁かれたことはないよね、付き合う前と態度も一緒。たまに自分ばっかり好きなんじゃないのかーなんて不安になったりするでしょ?
 するすると先輩の口から紡がれていく言葉は全てが図星で、一瞬この人には本当に読心術でも習得しているのではないかと疑ってしまうほどだった。でもその疑念も一つの仮説によって崩れ去る。

「ニールのやつ…!」
「ニール?ああ、ニール・ディランディのことか」

 彼とは話したこともないよ、そっか、もしかして…なんて思ってはいたけど図星だったわけだね。
 今ほど先輩のことを刺したいという衝動にかられたことはない。なんて人だカマをかけていただなんて…!もてる眼力の限りを総動員させて睨んでみても、先輩は楽しそうに笑うだけ。

「そんな君は、ティエリアの未送信メールが気にならないの?」
「そっそれは…」
「本当は知りたいんでしょ」
「そっそんな、こと…!」

 知り、たい…です……。
 常識だとかそういった私の中にあるもの全てを抑えるほど、その先輩の言葉は魅力的だった。
 だって仕方がない、何も言ってくれない態度にだしてもくれないティエリアにだって責任はあるもの、そんな状況で不安にならない女の子なんてゼロに等しい…と思う。
 だから私はそこまで最悪な人間じゃない…と自分への言い訳を散々心の中で述べてから先輩に向き直る。

「じゃあ特別に教えてあげる、実はね…」

 えっ!と咄嗟に出た言葉と赤面する顔を抑えきれずにうろたえていると、どうも先輩の様子がおかしい。おかしい、というかなんだか笑っている。いや、笑ってるのなんていつものことなんだけど、今まで以上にニヤニヤと、そして楽しそうに笑っていたからだ。直感的に嫌なものを感じて、恐る恐る尋ねようとした瞬間、背後から聞こえた声に体中の細胞という細胞が跳ね上がった。

「なにをしている」


魅惑の未送信メール

「ああお帰りティエリア、彼女がティエリアの携帯見てたよ」
「みっ見てない!それは先輩が見送信ボックスを…」
「なっみっ未送信だと!?」
「いやっちっ違うのそうじゃなくてティエリア…って先輩!」
「あーおかしい、やっぱり君ほどからかい甲斐のある人間はいないかもしれないよ」

:)090425

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