「帰りに職員室な」

 朝のHRで担任に呼び出しをくらった。心当たりなんて皆無な私は、遅刻ギリギリで登校したまだいまいち冴えない頭で必死に考えてみるも、やっぱり心当たりなんてない。
 どうしたものか、今日は帰って再放送のドラマを見ようと楽しみにしていたのに。早く終わるといいけど…と呟けば、隣にいたエリザに仕方ないから待っててあげるわ、なんて言われた。

「失礼しまーす」
「おお、忘れんかったんや偉い偉い」

 放課後、気怠げに職員室の戸を叩けば担任のアントーニョは回転する椅子をギイッと鳴らして私の方を振り向いた。
 偉い偉いって、先生は私をどれだけ馬鹿だと思ってるんだ。

「先生、私呼び出される心当たりなんてないんですけど…」
「何言ってんねん、もうすぐ修学旅行やないの」

 名前修学旅行委員やったやろ?先生ちゃんと覚えてんねんでー。
 先生の言葉で新学期始めの役員決めを思い出す。楽しそうだから…とエリザとリヒちゃんとで立候補したんだった。
 でもそれならなんで私だけ…そう尋ねると、だって名前がクラス代表やんけ、と。
 そういえば…と半ば無理矢理名前だけ背負わされたのも思い出す。

「にしてもや」
「はい」
「スカート」

 ちょっと短すぎやない?
 座ったままの先生が私の制服のスカートの裾をぴんと引っ張った。
 確かに短いといえば短いけれど、皆このくらいなんだから何を今更…と先生を見れば、先生はわざとらしく険しい顔を作る。

「女の子やのに、足冷えてまうやん」
「だって皆このくらいじゃん」
「そやかてあかんわ、それは」

 ちゃんと下に穿いてるん?はっ穿いてるよ!先生は心配してんやでーべっ別に大丈夫だから!

「カリエド先生」
「あ、すんませーん」

 名前のせいで怒られたやないの、そう言って私のスカートの裾を以前掴んでひらひらと左右に振る先生に先生が騒ぐから…と返してから、先生を見やると、先生は私のスカートをいじる手を止めて少し偉そうに腕組みをした。

「スカートのことは後でちゃんとお灸をすえたるから、とりあえず今は修学旅行やね」
「えー」

 えーやない、そう言っていくつかのプリントと冊子を取りだした先生はジャージのポケットからボールペンを取り出して必要箇所に丸ををつけていった。
 だけど説明を聞いている最中に申し訳ないなあとは思うけれど、一向に頭に入ってこない。先生の手綺麗だけどしっかりしてるなーとか、意外に先生睫長いんだなーなんてどうでも良いことを考えながら、気がつくと職員室に来てから時計の長い針が一周していた。もう一時間もたってしまったのか。

「ん、今日はこんくらいでええやろ、」
「次はエリザたちも呼んでまた説明してください」
「ちゃんと覚えてへんやろ、名前」
「そっそんなことない、よ!」
「まあええわ、次は修学旅行委員全員集めるさかい、」

 荷物をまとめ始めた先生に習って私も軽く身支度を整える。ああ、もう完璧に再放送終わった。再放送どころか夕方のニュースも終わるんじゃないだろうか。仕方ないから帰りに鯛焼きでも買って帰ろうかと思考をめぐらせていると、下まで送ったる、そう言って先生は爽やか過ぎるほどの笑顔で笑った。

「どうせなら家まで送って欲しかったな」
「そうしてやりたいんは山々やけど俺もまだ仕事残っててん」

 堪忍な、と顔の前で手を合わせて申し訳なさそうに言った先生は、下までつくとちょお待っとって、と姿を消した。もう季節は初冬であって、しかも夜だ。あたりは当たり前だけど真っ暗で、寒いから早くしてくれ、なんて思い出小さく足踏みをしながらセーターのポケットに手を突っ込んでいると、急に後ろから重い感覚。

「うっ、わ!」
「今日はサービスな」

 急に後ろから抱き付いてきた先生にびっくりしていると、当の本人はけろっと私にホットココアの缶を差し出してきた。あ、ありがとうございます…とあまりの動揺にいつもは滅多に使わない敬語で先生にそういうと、先生はなんや顔赤いでーとにやにやと笑った。こいつ絶対に確信犯だ…!
 そんな顔をされたら余計恥ずかしくて先生の所為だなんて言えないから、代わりに先生の足を思いっきり踏んでやった。
 悔しいけど、格好良い。


:)091031

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