「ごっほごほ!」
「ほら、早く寝なさい」
「俺たちにうつしたら承知しないからなコノヤロー!」
夏風邪をこじらしてしまったようで、名前は冷やしたタオルを俺の額に乗せてから、ご飯食べれるよね?そういい残してロマーノをつれて部屋から出て行ってしまった。
ロマーノの暴言は聞かなかったことにして、ピピッと鳴った体温計の表示を見ればそこには8度4分の数字。完璧に夏風邪やわあ、と一人ぼっちの部屋で呟いてから布団を顔までかぶる。
「アントーニョ、入るよー…ってなに」
「………」
「もしかして…」
暫くたって入ってきた名前は顔まで布団をかぶった俺をみて、きっと怪訝そうな顔をしているに違いない。まあ見えないからなんとも言えないのだけど。
「すねてるの?」
「………」
「もー、そういうとこロマーノと似てるんだから」
「ロマーノが俺に似てるんや!」
「おはよう」
つい勢いでかぶっていた布団を退けてそういえば、名前はいつものやさしい顔でおはよう、と挨拶をした。
その手にはお盆の上に小さな鍋みたいなものが乗っていた。あ、これ菊んちで見たことある…。
「風邪引いたときはおかゆがいいかなって、」
蓋をはずすと一気に湯気が立ち込める。そのどろっとした白濁色のそれをもって、名前は一口分掬ってふう、と息を吹きかけて、それから俺にあーん、そう言って差し出す。普段は絶対やらないことだけに、無意識に自分の頬をつねってみる。ああ、むっちゃ痛いわ。
「なあ名前どしたん?変なもんでも食べたんちゃう?」
「なによそれ、失礼しちゃう」
大の大人が一人にした位ですねてるから、見かねてやってあげたのに。
少し膨れっ面でそう言った名前にたまらなく嬉しくなって引っ込めようとしたその匙を銜える。
「はあ、これ食べたらちゃんと寝てね」
「わかったからほら、次、あーん」
「…もう、」
なんかこうしてると新婚さんみたいやんなあ、その言葉にふっと表情を緩めた名前の表情があまりにも色っぽくて見とれていると、気がつくと目の前に彼女の顔があって、ちゅっとわざとらしいリップ音が響いた。
「人にうつすと治る、っていうよね」
アントーニョがいないと家が静か過ぎてロマーノも寂しそうなのよ、わかったら早く直してね。
その言葉を残して部屋を出て行った名前。
いつもならそういうポジション俺やのに、本日二回目の一人ぼっちの部屋での呟きは、白い天井に吸い込まれて、消えていった。
夏風邪はバカがひく
:)090730