真っ青な空の下、私は懸命になってブラシを動かす。さっきまでアントーニョとギルとフランシスもいたはずなのに、気がつけば三人とも姿をくらませていた。全くなんて薄情なやつらなんだ。
元はといえばあの三人が、補習サボって遊びに行こうなんていうからいけないんだ。まあそれにまんまと乗っかった私も私だけど。
でも実際補習があったのはギルとアントーニョの二人で、私は普通に遊んだだけだ。なのに誘ったお前ら二人も同罪だ、なんて補習監督の先生の言葉。
ペナルティとして押し付けられた夏場のプール掃除は過酷と言わざるを得なかった。夏前に一度掃除されたものとはいえ、やはり屋外にあるものだから汚れてしまうもの。
ならば水泳部がやれば良いじゃないかとも思うけれど、どうやら今日明日で大会らしい。
ゴーグル型に日焼けをした友人の笑顔を思うと、少しこの作業にも意味があるのでは…と思えたような気がした。
「ギルとフランシスはー?」
「アントーニョ、帰ったんじゃなかったの?」
ちゃうわ、んな薄情なことするわけないやろー、と笑いながらいったアントーニョは右手に白い袋を提げていた。
てっきり三人でサボったのかと思っていただけに、アントーニョが救世主にも思えてしまう。
「なんや、あいつら。人に買い物頼んどいて…」
「何かって来たの?」
「じゃん!」
そろそろ恋しくなるかと思って、といいながらアントーニョが白い袋から取り出したのは四色のアイス。それぞれパッケージの色が違うところをみると、味が四つとも違うらしい。
ほら、と手渡された水色のそれは冷たくて、まさに私は今求めていたものだった。
「うわーアントーニョ気が利く!」
「せやろ」
「うんうん、今なら惚れそうな気がする!」
「気がするだけかい」
ほら、溶ける前に食べんと、アントーニョの言葉にブラシを端に立てかける。
プールサイドに腰掛けながら、パッケージを破れば、そこにはきれいな水色のそれ。おもわず一口食べれば、口の中いっぱいに冷たさが広がった。
「ひめひゃい」
「でもうまいなー」
「うん!」
ふとアントーニョの方をみれば、彼は薄緑のそれで、新発売の期間限定のやつだ、とわかる。
「ねえ、それ一口頂戴」
「ええよーほら、あーん」
あーんてなんか恥ずかしいな、なんて思いつつも一口もらえば、マスカットの味が広がった。うん、これは美味しい!
ありがとうと言おうとした瞬間、私の手元にアントーニョの頭があった。
何事かと思えば、私のアイスをアントーニョが食べたようで、自分もやったことなのに、なんだか顔に熱が集中するのがわかった。
「やっぱりそれは定番やなー」
せや、あいつらのぶんもええやろーと一気に二つのアイスをあけたアントーニョは一つを私に手渡した。まだ食べ終わってなかったのに、と急いで水色のそれを口に収めると、夏特有のあの頭がキーンとする感覚がした。
「うわ、変な顔やな」
「うっさいなー」
笑いながらそう言った彼の言葉に、少しむくれた顔をして新しいアイスを一口かじる。
嘘やん怒んなってーとまたもや笑いながらいうアントーニョが面白くて、からかってやろうとそのまま怒ったふりを続ける。
「俺が好きな女の子なんやから、可愛いに決まってるやんかー」
本日体温上昇中
「なっなに急に!」
「せやから好きってことやん」
「え、ちょっと待って…ええ!」
「待たへんって」
「ねえ俺たちいつまでこうしてんだよ?」
「大切な友達を見守るのがお兄さんたちの役目でしょ!」
:)090807