ただいまー、なんて誰もいるはずがないのに習慣的になってしまった言葉を言って靴を脱ぐと、部屋のおくからおせーよ!と怒鳴り声が聞こえた。あれ、おかしいな私一人暮らしのはずなのに。
「あ、ギルきてたんだ」
「きてたんだ、じゃねーよ何時間待ったと思ってんだ」
「はいはい、」
来てたなら、メールなり電話なり入れてくれたら良かったのに。とりあえずお酒で火照った顔を覚まそうと冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した。
ギルが後ろでどこいってたんだよ、なんて言ったのが聞こえて、ああ寂しかったのか、と少し彼が可愛く思えてしまう。
「合コン言ってきた」
「…はあ?ちょ、お前ふざけんなよ」
「待って!人の話は最後まで聞く」
血相変えて私に向かってきたギルを静止させて、私は続きを話す。別に大したことではなくて、友達にだまされたのだ。まあ付き合っている人がいる、なんて話したことはなかったし、その友達だって悪気があったわけじゃない。だけど居心地が悪くなって途中で気分が悪いから…と抜け出してきた。ただそれだけ。
それを聞いてギルは幾分納得したのか、近くにあったソファーに座りなおしていた。
「でもよ、」
「なに?」
「なんで俺と付き合ってるって言ってないんだよ」
じとっ、とした視線で私を下から睨むギルは、不満そうにそう言った。
何で言ってないのか…と言われても、面倒くさいからというのもあるし、どこか気恥ずかしいし…と適切な表現を見つけられなくて言葉を濁すように視線を逸らせば、ギルは立ち上がってぐいっと片手で私の顔を掴んだ。やだ、今私絶対ブサイク。
「これからちゃんと言えよ」
「わ、わかっ」
言葉が途中で途切れてしまったのは、それが物理的にふさがれてしまったからで、簡単に言えばギルにキスをされていた。
突然のことにびっくりしている私に、ギルは唇を離してから私をじっと見つめて口を開く。
今日はこれくらいで勘弁してやる
不憫不憫と散々バカにしてきたけど、一番の不憫は、こいつに惚れてしまった私かもしれない。
:)090825