今日はバイトもないし、学校もない。久しぶりの暇な休日で、そしてそんな久しぶりの暇な休日はもうすぐで終わりを告げようとしていた。
 そんな一日の終わりに、いつもより幾分長めにお風呂に入って、そしていつもより幾分丁寧に髪を拭く。まだ九月とは言え、夜になると大部冷え込むからそろそろ窓を閉めようかとしたその時、意味もなくマナーモードにしていた携帯が震えてびくりと肩が震えたのがわかった。時計を見れば丁度12時を指すところで、こんな時間にいったい誰だろうとディスプレイの表示を見れば、そこには見知った名前があった。

「もしもし」
「あー俺やけど!」
「俺俺詐欺なら間に合ってますので」
「ちゃうわ!俺や、アントーニョ!」

 今家の前なんやけど、ちょっと来れへんかな?
 いきなり何かと思って窓の外を見れば、本当にアントーニョの姿。おーいと手を振るアントーニョにわかったから静かに待ってて!とだけ告げて急いで外に出る。
 今いったい何時だと思ってるんだ、近所に迷惑な上、親に見つかりでもしたら確実に冷やかされるじゃない。

「おー早い早い」
「なんの用?」
「ちょっと散歩でもせえへんかと思って」

 なあええやろー?と私の顔を覗き込むようにしてそう言ったアントーニョは、聞いておいて返事なんて聞きもせず、私の右手をとって歩き出した。
 普段こういうことを平気でしてくるやつだけど、私は一応女の子であって、平気な振りはするけど本当は結構恥ずかしいんだから、そこんとこ察してほしい。

「明日バイト入ってる?」
「うん、たしか」
「じゃあ一緒やんな」

 明日もどの酒が一番出るか競争なー、俺今度こそウーロンハイやと思うんやけどどや!
 いつもいつも、居酒屋ゆえにそういった賭けをして、そして負けるのは決まってアントーニョ。バカだとは言わない、ただ彼はちょっと学習能力が足りのだと思う。私は今回もまた生中で勝つんだと思うと、アントーニョの悔しそうな顔が浮かんでおかしくなった。

「数学の課題出した?」
「夏休みの?あー出してへんわ」
「じゃあ一緒、現国は?」
「読感やったっけ?まだ読んでへんわ」
「じゃあ私の勝ち、読書感想文はちゃんとやったから」

 ほんまかー!と項垂れるアントーニョにふふんと鼻でわらってやると、補習付き合ってなーとまるで一生のお願いみたいに言ってきたから少し笑える。
 だけどまだ夏休みを終えたばかりで、中間も期末も終えてないのにそんな話をするアントーニョに気が早いんじゃない?そう言えばアントーニョは平常点なかったらテストで赤点とったらあかんやん!と珍しくまともなことを言った。

「多分数学は私も一緒かな」
「ほんまに!?」
「うん、でも他は多分ギリで平気かも」
「あー俺もギリで大丈夫、くらいに頑張らなあかんわー」
「どうせ頑張るならもっと頑張りなさいよ」

 その頑張るぶんの元気を遊ぶ方に持っていくんや、笑ったアントーニョにあんたは元気ないときなんてないじゃない、そう言おうとしていきなりのその独特の感覚に顔をしかめる。どないした?と聞くアントーニョに背を向けてからくしゅん!とこらえ切れなかったくしゃみをすると、急にさっきまでは特に感じていなかった寒さを感じる。昼間は暑いくらいなのに…。

「うわ、髪冷たなっとるやん!」
「お風呂はいったばっかだったから…」
「長袖のTシャツ一枚じゃ寒いに決まってるやんか、ちょい待ち…」
「え、ちょ、いいって」

 待ってて、と指示を出したアントーニョは着ていたパーカーを脱ぎ始めた。きっとこれを私に貸そうとしてるんだなと思って断ったのに、案の定そのパーカーを私の肩にかけたアントーニョは好意は素直に受け取っとくもんや!ともう爽やか過ぎるほどの笑顔でそう言った。
 あ、これ凄いアントーニョの匂いする…。

「ごめん…」
「なんで謝んの、俺が好きでやったことやから気にせんでええって」
「…アントーニョって優しいよね」

 こんなとき、この男の無条件の優しさと兄貴肌とでも言うのだろうか、その面倒見のよさを嬉しく思うとともに苦しくなる。
 私はこういうことをされ慣れていないから、いちいち反応したりどきどきしたりしてしまうけど、きっとアントーニョが今まで一緒にいた子はもっと上手に受け取って、そしてもっと可愛くお礼をいえるんだろうな、なんて…ってこれじゃあまるで私がアントーニョのこと好きみたい!やだやだやだ、もう何考えてるんだ私は。

「なあ、俺優しいと思う?」
「うん、凄く面倒見もいいし、優しいと思う」
「…どうしてやと思う?」

 それは…誰にでも分け隔てなく接せるから…と自分で言っていて恥ずかしくなって段々うつむく私の顔を、アントーニョは覗き込む。
 そんな顔の距離も近くて、さっきまでつないでいた手がいつの間にか離れているのが、少し寂しく思えた。

「…俺、好きな子にしかこうして服貸したりせえへんし、こんな夜に散歩したりもせえへんよ」


真夜中散歩


「なあ、なんかむらむらした?」
「むっむらむら!?なんで?」
「夜中とかな、暗い時に異性と一緒にいると性的な興奮をもたらす…ってフランシスが教えてくれたんやけど」
「だっだからこんな夜に誘ったの!?」

:)090905
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -