一緒に暮らし始めてからどのくらいになるんだろうかと終電ぎりぎりの電車に揺られながら考えをめぐらせて、順を追って数えてみたら三年とちょっと。思った以上に大きいその数字に、自分でも驚いてしまった。
 付き合ってから同棲まではそんなにかからなかったことを踏まえても、私は彼ともうそれなりの時間をすごしているのだと改めて考えると、なんだか不思議な気分になる。

「遅かったやんか」
「今日は遅くなるって言ってたでしょ」
「そやかて飲み会やろ」
「上司から誘われちゃったら断れないもん」

 帰ってきて、スーツの上着をハンガーにかけるとすぐに後ろからアントーニョが覆いかぶさるように抱き付いてきた。重いからどいて、と言っても彼はやーだ、なんてまるで駄々っ子みたいにして離れようとしないから、もう慣れたとはいえ少し可愛いなあと思ってしまう。

「あー他の男の匂いするわー」
「私が浮気してたらどうする?」
「えー、まずきれるわ、きっと」
「私に?」
「うん、そん次にその浮気相手やな」

 もしかしたら殺してしまうかもしれんなあ、と笑ったアントーニョは手近にあったフランシスが持ってきた香水を五回くらい私に吹きかけた。フランシスの選んだ香水はセンスがいいわけで、いい匂いだけど、こうも集中的にかけられてしまうとただのキツイ匂いにしかならない。むせかえるようなそれに、つい顔をしかめてしまう。

「きっつ」
「消臭やん」
「他の男の匂いなんてしなかったくせに」
「せやけどかすかに変な香水の匂いはしたで」
「なんだか犬みたい、きっとエレベーターとか電車の中でじゃない?」

 いまだ後ろに覆いかぶさったままのアントーニョを引き連れたまま冷蔵庫からミネラルウォーターを出して一気に500ミリリットルのボトル半分ほどまで飲みきる。後ろでアントーニョがいつも俺にはコップ使えって怒るくせにーなんて言っているけど、この水は全部私が飲みきるからいいんだ。
 とりあえず牛乳と500ペットの水は次元が違いますーとだけ返しておく。

「ねえ」
「んー」
「いい加減離れない?」

 ひと段落着いてソファーに座ったは良いけれど、結局体制を変えられて私はアントーニョのひざの上にいる状態。そろそろ降りたいんだけど、というかいつまでこうしているつもりなんだろう。

「なんで、嫌なん?」
「ねえ、私たちってもうこうして一緒に暮らすようになってからもう三年もたってるんだよ」
「なんやの、いきなり」
「さっき数えてびっくりしちゃった、でもそんなに一緒にいるのにアントーニョは今もこうして私にまとわりつくじゃない?」
「まとわりつくってなんか嫌な言い方やなあ」
「なんか、それって凄いよねって」

 普通はここまできたら夫婦のように、お互いを大切に思うことに変わりはないけれど、もう少し距離を置いた、こんな付き合い始めのカップルみたいな感じにはならないんだろうなあ、と。そう考えると私もアントーニョも凄いのかもしれない、なんて。

「そんなん、」

 今日も明日も明後日も、来年も何十年たっても俺は今のままでいるつもりやで。
 しわっしわの爺さんになったって、老人ホームの他の爺さんどもと浮気してへんか婆さんのこと見張るんや。
 自信満々にそう言ってのけたアントーニョは、後ろからぎゅうと私を抱きしめた腕に力をいれた。
 今日も明日も明後日も…私はアントーニョの言った言葉を思い返して、それであることに気がついて顔に熱が集まったのがわかる。

「そ、それって…」
「そのためには、婆さんと結婚せなあかんなあ」

いつまで一緒にいてくれる?
 死んでも一緒にいたいなあ、

:)090928
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