「なんであんたがいるのよ」
「なんでって…」

 テスト前なんだから勉強してるに決まってるでしょ、と苦笑気味に机に広げられた数学のワークと参考書をさしてそう言ったトーリスは、そっちはどうしたの?勉強?と尋ねてきた。

「そうよ、勉強しにきたの」
「そういえば赤点がどうとふがっ!」
「トーリスうるさい」

 とにかく私は次のテストの為に勉強しに来たの、と確かにまあ赤点ギリでやばかったから…という理由でトーリスが言ったことはあながち間違ってはいないのだけど、なんだかトーリスに言われると無性にむかつくのだ。
 不条理だとは思いつつも、トーリスの隣に腰を下ろして、持ってきた教科書やノート、参考書を広げる。

「………」
「………」
「……ねえ、」

 十分くらいだったころだろうか、図書館は当たり前だけど静かでそりゃはかどる人ははかどるだろう。現にトーリスなんて参考書を見つつだけどすらすらとワークの問題を解いていっている。紙の上を走るシャーペンの音がむかつくほどに。
 でも私はというと、正直参考書を見たってチンプンカンプンなのだ。これはもう仕方ない、トーリスに聞こう、そう思って話しかければトーリスは含み笑いで私を見た。

「教えて欲しいの?」
「…うん」
「じゃあ教えてあげる」

 上から目線なその物言いに多少イラッと来たものの、じゃあ…とワークをトーリスの方に寄せると、トーリスはその代わり…と口を開いた。
 この流れはもしかしなくても、と身構えると、トーリスはびっくりするくらいにっこり笑って二の句を継いだ。

「あとで、何か俺の言うこときいて」
「却下」
「じゃあ次のテストは今度こそ赤点だ」

 痛いとこついてきやがって…睨むようにしてトーリスを見ると、こともあろうにトーリスはやっぱり笑顔のまま。こういう時のトーリスは決まって質が悪い。きっとその要求もロクなことじゃないのだろう。だったら教えてもらわなければ良い話だけど、今度のテストで頑張らないと本当にまずい。赤点だけは回避したい、いや欲を言えば平均くらいはいきたい。トーリスはなんだかんだ言って教え方がうまいから、教えてもらったらきっと平均はいくだろう。いやでも言うことは聞きたくない、でも赤点は…。

「お願いします」
「うん、利口な考えだと思う」

 にっこり笑ったトーリスは、じゃあまずは…と私からしたら膨大なワークの範囲の中からいくつかをピックアップして説明を始めた。
 さっきまでの質の悪い態度とは違って、親身に一つ一つ、時には図や表を使ったりして私にもわかるように教えてくれる。こいつ先生にでもなれば良いんじゃないだろうか…と一瞬そんなことを考えていると、よけないこと考えない、とシャーペンで頭を叩かれた。

「あ、正解」
「本当!?」

 図書館に来た時にはまだ上っていた陽も、気づくとどっぷりと沈んであたりは真っ暗だった。目の前の数式と赤丸や赤ペンで添削されたノートを見て思わず、ありがとう!とトーリスにお礼を言うと、トーリスは照れくさそうに笑ってからでも約束は約束だからね、と言って荷物をまとめ始めた。
そろそろ閉館の時間だ…と私も習って片づけをしてそそくさと図書館を出ると、もう寒いくらいの気温。

「さっむ!」
「もうすぐ11月だからね」
「あーもうやだなー」
 
テストなんて早く終わっちゃえば良いのに…帰り道、ぽつりぽつりと点在する街頭の明かりの下、二つできた影が進んでいく。今更だけど送るよ、そう言ったトーリスに断ろうとしたけれどきっと聞き入れてくれそうにもないから素直にありがとう、とだけ言って家まで歩を進めた。

「そういえば、」
「なに?」
「約束、忘れてないよね?」

 そういえば、と私があきらかに嫌そうな表情をすると、トーリスは楽しそうにそんな気構えないでよ、と声を出して笑う。

「別に獲って喰ったりはしないよ」
「私にできること…?」
「もちろんそのつもり」

 本当に大したことじゃないから大丈夫だよ、ただ断ったらだめだよ。そうトーリスが言ったところで、私の家の前に着いた。一体どんなことなんだろう…不安と不安と不安でいっぱいな私に、じゃあまた明日、とトーリスは少し小走りで帰っていった。

毎日一緒に帰ってください、なんて
 付き合って、と言えない俺は少し臆病だ。

:)091024
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