「はあ、バイルシュミットくんって本当に底なしの馬鹿なのね」
「ギルで良いっつってるだろ」
「なんだか親しいみたいで凄く嫌」

 綺麗に弧を描く唇からは想像もできないような言葉ばかりを発しているのは俺のクラスの委員長で、数週間前まではこの俺様も委員長がこんなやつだとは思っていなかった。
 東洋を思わせる綺麗な黒髪に、真っ白い肌。可愛いというよりは綺麗の部類で、見た目はかなり俺好み。アントーニョやフランシスに後押しされながらもデートの約束を取り付けたのは二週間前。そして待望のそのデートの当日、俺は衝撃をうけたんだ。

「私、馬鹿って嫌いなの」

 頭を金槌で殴られたような衝撃と、あまりにも違いすぎる彼女の態度に驚きを隠せない俺を尻目に、ボヌフォアくんとかカリエドくんに言ったら怒るから。そう彼女は俺に言った。
 今思い出しただけでもぞっとするけどしかし、こう明らかに冷たくされると、ひくにひけないのが男ってモンだと思う。少なくとも俺はそうだ。

「そろそろ諦めたら?
こんな性格の悪い女捕まえたってどうしようもないでしょ」
「いや、こうもあからさまな態度をとられると逆に燃える」
「…あんたMだったんだ」

 きっしょ、ひくわ。
 蔑むような視線を送る彼女。でもそんなの正直もう痛くも痒くもねえ。勿論俺はMなんかじゃないが、それよりもこうして門の前で待ち伏せるのもこれで一週間目だ。なんだかんだ言って毎日一緒に帰ってくれる彼女に、もしかしたら脈ありなんじゃねぇかとも思いはじめてしまう。

「なあなあ」
「何よ、30文字以内なら述べることを許すわ」
「さっ30文字!?
えっとあーなんで俺と一緒に…ってああ!もう11文字じゃねーか!ちっちゃい文字はカウント無しでもいいか?」

 必死になって両手で文字数を数える俺をみて、くすりと一瞬彼女が笑った。たった一瞬、でも俺は見逃さなかった。

「何よ、あんたが冗談なのに本気にしてたのが可笑しかったの。だからジロジロ見ないでよ」
「冗談だったのかよ!
つか今笑ったよな?笑ったよな?」
「別にいいじゃない笑ったって!私が笑うのがそんなに…」
「すげー可愛かった」

 一瞬きょとんと全く訳がわからないという表情をしてから、彼女ははあ?と少し顔を赤らめた。いや本当に可愛かったんだ。いつも教室で皆に見せる笑顔なんて比にならないくらい。いや、それだって充分に可愛いけれど。

「いつもの教室とかでの作り笑いも、勿論さっきまでのすかした顔もいいけど、でも今のが俺が見てきた中で一番可愛かった」
「…なにが言いたいのよ」
「そんな顔、」

 俺にしか見したことないだろ?
 至極真面目にそう言うと、ぐいと彼女の手が俺の頭を思いっきり下に向けた。自分の足しか見えない俺の視界に唯一彼女の足が映る。

「いってえ!」
「うっさい馬鹿!下向いてて!」

 かなり本気で足を踏まれた俺は、少し意地になって顔を上へと向けると、そこには顔を真っ赤にしている彼女の姿。
 嘘だろ、と自分の頬を抓ってみたが確かに痛い、気が動転して痛すぎるほどに抓ってしまったからかなり痛い。
 どうやらこの有り得ないような光景は嘘じゃないらしい。

「馬鹿なに顔あげてんのよもう本当最あ…」

 実際経験豊富かと聞かれたら自信をもって縦に頷けるわけじゃないが、まあ多少はある。その経験からどうこう言う訳じゃないが、これはいけるんじゃないか、そう思うったのと同時か少し早いくらいで、気がついたら彼女を抱きしめていた。きゃあきゃあと騒いでいた彼女の言葉がやんで、やっと自分のしたことを理解する。

「…やだ、離しなさいよ」
「嫌だ」
「やだやだ離して!」
「なあ、」

 俺と付き合えよ、両手で彼女の頬を挟んで視線を反らそうとするその目を俺に合わせてそう言うと、少し潤んだような目で睨まれた。
だけどもうそれは今までのような威厳も凛々しさもないもので、俺を調子づかせるには調度よかった。
 既成事実をつくっちまえばよかったんだ。


「なあなあ!昨日お前下校途中キスしてたってほんま?一年の子がさっき噂しててん!」
「まっまあな!」
「じゃあぷーちゃんもこれで童貞卒業だね」
「ど、童貞じゃねーし!」
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テーマ「人外ファンタジー」
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