「おはよー」
「もう起きたん?まだ寝とっても大丈夫やで」
「…今何時?」

 えーっと、五時過ぎやけど…とキッチンでなにやら料理をしているアントーニョはエプロンをして上機嫌。それに反比例するかのように、私の顔はサアッと青ざめてゆくのが自分でもわかった。目眩を抑えつつもアントーニョに駆け寄り、問い詰める。

「なんで起こしてくれなかったのよ!」
「だって気持ちよさそうに寝てるんやもん」
「もんじゃないよ!今日はクリスマスなんだよ!クリスマス!」
「クリスマスは明日やんけ」
「でも恋人たちが過ごすのはイヴって相場が決まってるの!あーもうだから昨日はやめようって私言ったのに…!」

 あーもう最悪だ、今日は二人で朝から新しくできたショッピングモールに買い物に行って、お互いにプレゼントとか選んじゃったりして、それからクリスマス色の街並みで夜景を見ながらディナーとかして帰りにドライブなんてロマンチックな計画を立てていたのに。もうすべてが台無しだ。
 というよりも、この計画は私一人で立てていたわけじゃない。アントーニョと一緒に話し合って決めたものだ。まあ確かに私が一方的に要求を飲ませたといっても過言ではないけれど、でもアントーニョだって今日の計画を知っていたのだから、やはり起こしてほしかったし、もう無理だとわかっていても、二人でいろいろと恋人らしいクリスマスイヴを過ごしたかったと思ってしまう。

「アントーニョの馬鹿…」
「そんな怒らんで、ほら、俺がちゃんと夕飯つくったるから」
「夜はディナーのはずだったじゃない!それに家で食べるなら、彼女の私がちゃんと頑張りたかったよ…」

 しゅん、と絵に描いたように落ち込む私に、アントーニョは不安げな面持ちで近づいて顔を覗き込んでくる。本当にいつもこうだ。私はアントーニョのために彼女らしいことをしてあげたことがない。それは私の力不足というのは十二分にわかっているつもりだけど、ついアントーニョの優しさに甘えてしまう自分がいるのも事実。
 昨晩だって、誘ってきたのはアントーニョだけど、それを結局呑んでしまったのは紛れもなく私だ。そして大寝坊をしでかしたのも紛れもなく私。

「アントーニョは、私と出掛けたりとかしたくない?」

 だからいつもふとした瞬間に不安になってしまう。
 友達とお互いの彼氏との話に華を咲かせている時だって、その友達が彼氏にしてあげていることと自分を比べては不安になる。良い彼氏だね、大切にしなきゃ、なんてよく言われるけれど、それにただただ不安を募らせて、大切にする、ということを実行に移せずにいる自分がいる。本当に馬鹿だとは思うけれど、いまさらどう変えていいのかもわからないんだ。
 だからこのクリスマスで挽回しようと思っていたのに、ちゃんと良くできた彼女って言われる女になるって決めていたのに。
 つい口に出てしまった言葉を回収することはできなくて、私は意味もなくハッとして口を抑えた。こんな相手を困らせるようなことを言いたいわけじゃないのに。
 恐る恐るアントーニョの表情をうかがえば、やっぱり悲しそうな顔をしていた。

「ごめん、俺は別にそんな意味やなかったけど、お前の気持ち考えとらんかったわ」
「ちっ違う!違うの本当にごめん!」

 私が我が儘なだけなのに、アントーニョにそんな顔してほしいわけじゃないのに。でも馬鹿で不器用な私はその場で一番最善の言葉が出てこない。違うの、違うんだけど、どういっていいのか分からない。また不用意に口を開いて彼を傷つけてしまうことも怖いし、なにより、私に嫌気がさされるのが一番怖い。

「俺は別に、一緒におれたらどこでもええんよ。
綺麗な夜景の見えるレストランでも、いつも見慣れたこの家でも。
お前が一緒におってくれたらそれで嬉しいって思うんやけど…」

 でも、やっぱり女の子やもんな、一緒に出かけたり、ましてやクリスマスにはムードの一つも欲しいわ。
 私の頭を撫でながら申し訳なさそうに明日やり直させてくれへん?と小さく笑った。
 アントーニョはいつも私の欲しい言葉をくれるから、だから私はいつも甘えてしまうんだ。でも、私も今日くらいは素直になってみたい。

「私もアントーニョがいたらいい」
「…耳まで真っ赤やな」
「うるさい!」

 こんなサービス滅多にしないんだからね、と口から出そうになって慌てて引っ込める。どこぞの歌姫か私は。
 恥ずかしさに身を任せてアントーニョにしがみつくように抱き着けば、アントーニョは無理せんでもちゃんと伝わってんで、と腕に力をいれた。

:)091224
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