例えば午前0時に会いにいくだとか、電話やメールをするだとか、そういった企画をするほど私たちももう初々しくはなくて、そしてなにより私と彼の仕事の関係で時間をつくれないまま、2月12日の夕方になろうとしていた。時刻は只今17時ちょっと前。そろそろ帰れるな、なんて考えながらデスクに向かうと隣のエリザが話しかけて来た。

「そういえば今日彼の誕生日なんじゃないの?」
「まあ、そうなんだけど…」
「えっやだもしかして…」

 なにも用意してないとか…?
 恐る恐る聞いて来たエリザに頷いて見せると呆れたように彼女は頭を抱え込んだ。
 私だって流石にまずいなあとは思うけれど、今更何をしていいのかもわからない。
 高校生の時からあいつともエリザとも付き合いがあったわけだけど、そう長いこと一緒にいるともういろいろとし尽くしてしまったというか、新しいことを見つけることが困難で。

「あーもう本当あんたは!
今日くらい有給使ってでも休んだらよかったのに」
「でもアントーニョも、仕事みたいだったし…」

 有給を使おうかとも思ったけれど、なんだかんだでアントーニョに言わなかったのはなにを隠そう自分自身であるわけで、考え直してみれば私の誕生日にアントーニョは食事に連れていってくれたような気がする。それなのに何も買っていない上に何の考えもないことに罪悪感を感じつつ、業務終了の時間がくることに少し怯えている自分が嫌だ。

「もー本当は今日…ってあの車、アントーニョじゃない?」
「えっ!」

 エリザの言葉を聞いて自分も身を乗り出すように窓の外をみると、そこには見慣れた車があった。やばい、という焦りと、それでもやっぱり恋人が迎えに来てくれたという嬉しさとで良く分からない気持ちになる。

「いーわよ、さっさと行ってきなさい」
「え、あでもまだ…」
「何言ってんの、もう5時でしょ!さっさと着替えて言ってきなさい」
「あ、ありがとエリザ!」

 エリザに背中を押され、はやる気持ちを抑えつつ急いで更衣室で私服に着替えて荷物をまとめて。ちょっと化粧直しと髪も整えて会社を出ると、そこには上から見た時と同じでアントーニョの車と、そしてその中に私を見つけてにこにこと手を振るアントーニョの姿があった。

「おー今日は早かったやんけ」
「なっなんでどうしたの?」
「ええから、ほら」

 車から一旦出てきたアントーニョはそのまま助手席のドアを開けて私を促した。こういうところ、紳士でずるいなあと思う。
 助手席に座ってからこれからでも遅くない誕生日のお祝いプランをいろいろと組み立ててみるけれど、いいお店の予約なんてもう今更できないし、一つプランが出来上がっては崩れて…を繰り返していると、アントーニョに話しかけられていたことに気がついた。

「なあ、ちゃんと聞いとった?」
「え、あごめん…なんだっけ?」
「もーなんや今日おかしない?」

 そんなこと…と続けて言葉が詰まってしまう。ここで言ってしまうべきだろうか、ただ長年一緒にいて慣れてしまっているからと言って好きな気持ちに変わりはないのに、誕生日に何も用意していないというのは痛い。

「なあ、俺ゆうて欲しい言葉あんねんけど」
「え、」
「その口から聞きたいねんけど」
「お、お誕生日、おめでとう…?」
「なんで疑問形やねん」

 笑って私の頭をぐしゃぐしゃと撫でたアントーニョに、どうしてか目頭が熱くなってしまう。零れそうになるそれを抑えて、アントーニョにぎゅうとしがみつくと彼は、運転中やって、と笑いながらウィンカーをだした。

「あの、ね」
「ん」
「忘れてた訳じゃないんだけど」
「ん」
「今日なんにも準備してなくて…」
「んなこったろーと思ったわ」

 プレゼントは今度二人でどっか行った時に買うね、それで今晩は家で申し訳ないけど頑張って腕によりをかけてご馳走にするから!で、あと…

「まだあるんかい」
「きょっ、今日だけなんでもいうこと聞いちゃう!」

 キキッと急に車が止まって、びっくりしてアントーニョを見るとアントーニョのほうがびっくりしたような表情をしていた。
 外を見ればアントーニョの自宅駐車場。

「だ、大丈夫…?」
「あーもう、あんまり驚かせんといてよ」

 そんなプレゼント貰ってしもたら、明日会社休ませなあかんことになってしまうやんけ。
 言葉の意味を飲み込むのに数秒、少し赤くなったアントーニョの顔を見て、可愛いなあなんて思ってしまうくらいだから、私たちもまだまだ初々しいのかもしれない。

「大丈夫だよ、だって明日土曜日だし」

 確信犯とでもいうようににっこりと笑って見せる。すかさず小突く優しい手に、私たちもまだまだ捨てたもんじゃないなと思わされる。

:)100212
西誕企画様に提出させていただきました。参加させてくださりありがとうございました。
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