「ねえお兄ちゃん、」
「なんやどないしたん、そんなおっかない顔して」
「そりゃおっかない顔にもなるわよ!」

 目の前の馬鹿兄貴はへらへら笑って私の言葉をかわそうとするけれど、今日という今日は逃がさない。お兄ちゃんが逃げられないように壁際に追いつめると、なんやそんなプレイお兄ちゃん教えた覚えあらへんで!なんて馬鹿なことを言い始めた。お兄ちゃんからはそんなプレイどころかどんなプレイだって教わるつもりはない。

「昨日私の彼氏に変なこと言ったでしょ」
「…ゆうてへんわ」
「嘘、お兄ちゃんって嘘つくと目が泳ぐんだから!」

 お兄ちゃんの所為で私振られちゃったんだからね!と少し大声できつく言うと、お兄ちゃんはほんまに?と不謹慎なくらいの笑顔でそう言った。
ほんまにじゃないのよ!何回目だと思ってるの?俺が許せる相手になるまで何回だってやったるわ、お前のためなら兄ちゃん悪者にだってなんにだってなったるで!何言いきったでみたいな顔してんのよ!全然格好良くなんてないんだから!

「もう!本当にお兄ちゃんの所為で私嫌な意味で一目置かれちゃってるんだから!」
「兄ちゃんがこないなイケメンやとそうなっても仕方あらへんよ、ええやんもう兄ちゃんで」
「もう本当に馬鹿!本当にそんな噂もあたりするんだから冗談でもやめてよね!」
「よし、明日学校中にふれまわっとくわ」
「あーもうなんで話通じないの!」

 満足げにうんうん頷くお兄ちゃんに一発蹴りを入れると、女の子がそんなはしたない真似したらあかん!兄ちゃんやなかったらそのピンクのパンツ見られてるところやで!
 結局お前も見てんじゃん!とスカートを抑えながらもう一発ニ発と入れると痛かったのか、うずくまるお兄ちゃんの姿。
 良い気味だわ、とそのお兄ちゃんの前に仁王立ちしてみるものの、お兄ちゃんは一向に起き上がらない。あれ、少しやりすぎてしまったのだろうか。確かに加減せずにやった感は否めないな…と少し、本当に少しの罪悪感に見舞われる。

「お、お兄ちゃん…?」

 大丈夫?と言おうとした瞬間、そのうずくまっていたお兄ちゃんがいきなり起き上がって私に抱きついてくるものだから一瞬言葉を失ってしまう。
そんな私にしてやったり…というような顔をしたお兄ちゃんはやっぱりすぐに引っかかるんやなあ、お兄ちゃん心配やわあ、とにやにやしながらそう言った。

「兄ちゃんはあんな蹴りではびくともせんで」
「わざとなんて最低!はーなーしーてー!」
「まあ兄ちゃんには勝てへんってことや」

 俺が一生大切にしたるわ、とそれまでのふざけた口調とは打って変わって耳元で低くて甘い声で囁いたお兄ちゃんに、不覚にもぞくっとしてしまたことも心臓が跳ねてしまったことも、絶対にお兄ちゃんには言えない。


喧嘩するほど仲が良い
 いつかは嫁いでいくのかと思うと、今くらいは俺が独占したんや。

:)091206

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