「全っ然わからんわあ、」
「ほら、ここは決まり文句だから熟語集にあったやつでしょ?」
「せやかて熟語集やってへんもん」

 ガタンと椅子を後ろに引いて楽な体制になったカリエドくんは、赤点だけは回避したかったんやけどなーと諦めの表情。
 そんなカリエドくんに、ほら諦めないで、と背中を叩いて彼の目の前にワークを広げる。前に補習した時も、なんだかんだいってみっちりやらせたらそこそこの点数をとれたんだ。今回だってやれば絶対に赤点なんて余裕で回避できるのに。

 「カリエドくんはやればできるんだから、ちゃんとやらなきゃ勿体ないよ」
「そうや、先生この間のサッカーの試合見た?俺めちゃ活躍してたんやけど!」
「体育の?それは授業があったから見れないよ」
「じゃあ次の部活のやつはちゃんと見といてな!」

 今週末にうちで練習試合あんねんけど、絶対勝ってみせるわ!と眩しいくらいの笑顔を向けたカリエドくんにじゃあちゃんと見るから今は勉強ね、とシャーペンを握らせる。
 このまま彼のペースになってしまったら、最終下校時刻までずっと話しこんでしまう。それだけはさけなくては。

「なあ先生」
「なに?」
「先生この間D組のやつに告白されたった本当なん?」
「え、ええ!」

 なんで知ってるの?とカリエドくんに問い詰めれば、そんな噂すぐに広まるに決まってるやん、で、本当なん?といつもよりも真面目な表情でそう言ったカリエドくんはまっすぐ私の眼を見てそらさない。
 そんな顔をされたら私もはぐらかすことなんてできなくて、こくりと無言で縦にうなずく。

「で?なんて返事したん?」
「そんなの…!」

 もちろん断ったに決まってるじゃない、教師と生徒なんてそんなのドラマや漫画の中だけだもの。小さい声でそう返すと、カリエドくんは盛大に息を吐いた。

「はあー良かったわー」
「なっなんでよ」
「だって」

 先生のこと取られたら悔しいやんけ、と私の後頭部を片手で支えたかと思うと、彼の顔はすでに目の前にあって。
 それが何を意味するかわからないほど私も初心ではなく、ただ触れるだけのそれなのに沸いたように熱い頬をどうにかしようと両手で押さえると、当の本人はけろっとして、あれ、足りひんかった?と茶化すように笑った。

「今日の補習のお礼と、次満点とる俺へのご褒美ってことで」

 あんまり笑顔が眩しくて、暫く彼に見とれてしまった。


:)091128
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