あまりの眠気に布団から出ることを躊躇してしまったくらいだが、ここはやはりと勢いをつけて布団を吹き飛ばしたのが一時間程前のこと。支度に手間取って急いで五時ギリギリに体育館へとたどり着けば、外靴からシューズに履き替えて体育館の扉を開けたスガさんがいた。

「あ、スガさん! おはようございま……」

 駆け寄ってスガさん越しに体育館の中を覗けば、そこにはボール出す黒髪の男の子と、その子が出すボールを一心不乱に追いかける小さな男の子の姿があった。もしや、これが田中の言っていた例の問題児二人なのだろうか。

「ああ、名前か。おはよう。」

 二人の姿を見て唖然としていたスガさんは、暫くしてから私に気づいて体育館の中へと入っていった。私もそれに続く。

「あの、この二人が大地さんから絶賛入部拒否られ中の……」
「うん。やる気はありまくりなんだけどねぇ」

 性格に問題があるのだとしても、小さな男の子の方の身体能力の高さには驚きを隠せない。そしてよくよく見てみると黒髪の男の子はあの「コート上の王様」である影山飛雄で、彼のことを思い出すと一緒に去年の中学生の大会を見に行った時のことが蘇る。あ、あの小さい男の子って……。

「あ、あの二人去年の大会の……」
「そういうこと。こんな偶然あるんだもんな」

 面白いものを見つけたかのようにクスクスと笑ったスガさんは、そのまま二人のことを見つめていた。

「つって……え?」

 訳のわからないことを言いながら体育館に入ってきた田中は、二人を見て唖然としていた。しかしそれも無理はない。私もスガさんも、何時の間にか二人に見入ってしまっている。スガさんの返答に更に驚く田中。

「なんか……なんか凄いね」
「お前の台詞馬鹿っぽさがはんぱねぇな」
「田中もね」

 暫く続いたワンマンは、影山君の意地悪な一本で終わるかのように思われた。しかし、それを抜群の身体能力で追いかけて拾った小さな男の子の姿に私は最早感動すら覚えていた。だがそれだけではない。そのボールを影山君はふわりとした手つきでトスしたのだ。しかも小さな男の子は、流石にそれは取れないだろうと思っていた私たちの思いをまたも裏切って笑顔で打ち切ったのだ。

「やばい。なんかわかんないけど、泣きそう」
「ばっかじゃねーの、と言いたいところだが同感だ」

 影山君に勝つぞ、と言われた小さな男の子は、そのままキラキラした目で当たり前だ、と言おうとして吐いた。

「あ! これ、一応差し入れ。今更感が拭えないけど……」
「え、あ、ありがとうございます!」
「あっす!」

 吐瀉物を片づけを手伝ってから戻って、すっかり忘れかけていた差し入れの袋を二人に差し出す。相変わらず目をキラキラさせて勢いよく腰を折った小さな男の子に影山君も続いた。なんだ、話にきいていたよりもずっといい子そうな子たちじゃないか。窓から差し込む朝の光が、段々と強くなってゆく。

「え、っと、あの、あなたは……」

 差し入れのスポーツドリンク二本とお菓子がはいったビニール袋を受け取る小さな男の子が遠慮がちに尋ねる。そういえば、彼らとは初対面で自己紹介も何もしていなかった。

「私は二年マネージャーの名字名前です。よろしくね」
「わ、マネージャーいるんすね! おっ俺は日向翔陽っていいます!」
「影山飛雄です。よろしくお願いします!」

 元気の良い二人に、なんだかこちらまで嬉しくなってくる。これは田中が可愛がるのも頷ける。これは、早く一緒に体育館で練習してほしいな。

「何ニヤニヤしてんだよ」
「うるせーバカ」
「おい誰がバカだコノヤロー!」
「お前らは本当仲いいな」

 スガさんに全力で否定してから田中を見ると、田中は田中でまたニヤニヤと笑っていた。本当、こいつにだけは知られたくなかったのに。

「お前、告白とかしねーの?」
「ほんっとうるさい!」

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