運動している男の人の脚というのは、どうしてこうも格好良いのだろうか。白くて長くて、それだけだとまるで女の子みたいだけど、勿論それだけじゃない。ふくらはぎにはぷっくり膨れた硬い筋肉があるし、太腿も歩くたびに浮きでる側面の線は色っぽささえ感じてしまう。本当に骨と筋肉と皮膚しかないのではないだとうかと興味本位で触ってみると、その脚の持ち主はビクッと小さく驚いた。

「なにしてんすか」
「いや、私に構わず続けてて」

 影山君の部屋だというのにたいしたアウェイ感も感じずに、そのまま彼の脚を撫でる。ものの十五分ほど前に広げられた問題集の解説も終わって、彼の練習問題を解き終わるのを待つだけの私はいわば暇なのだ。暇つぶしに部屋をぐるりと見回しても綺麗に整頓された室内に面白いものはなく、彼の脚を観察し触診するという行動に行き着いた。
 最初こそ不服そうな顔をしていた影山君ではあったけれど、今は私の言うとおりに黙々と問題集を解いている。しかし、折角の部活が休みの日に「テスト勉強を教えてください」なんて、彼も真面目なんだか馬鹿なんだかよくわからない。部には秘密にしている関係ゆえにおおっぴらに外を出歩くなんて出来やしないけれど、それでももうちょっとロマンチックな過ごし方というものがあるだろうに。

「っ名前さん、くすぐったい」
「え、ああごめんごめん」

 もの思いに耽っていたせいか、彼の右膝の同じところを何度もなぞっていたようだ。少し顔を赤くした影山君に、私の加虐心がくすぐられる。謝った直後だというのも忘れて、今度は太腿の内側を人差し指で触れるか触れないか位の感覚で撫でる。触れた瞬間に、彼の脚はまたも小さく跳ねた。

「ちょ、何してんすか本当に!」
「何って、綺麗な脚だなって思って触ってるだけ」
「触ってるだけ、じゃなくて触り方っす!」

 撫でていた手を影山君に掴まれる。どういう反応をするのかなと思ってやっただけなのに、どうしてこうも期待以上の返しをしてくれるのだろうか。
 掴まれた手はそのままに影山君の目を見つめていると、彼は更に顔を真っ赤にさせて目を逸らす。

「こっち向いてよ」
「っ名前さん!」

 尚もからかおうとする私に、影山君は痺れを切らしたとでもいうように手を掴んでいない方の手で、私のシャツの襟首を押さえつけた。

「さっきから、見えてます」
「え? ……あー」
「それに、触られたりしたら本当やばいんで、やめてください」

 たしかに襟首の広くあいた服をきてきてしまったのは事実ではあるが、そこまで気にされるとは思ってもみなかった。それにここまで可愛い反応をされてしまうと、もっとからかってしまいたくなる。それに、

「ねえ、」
「何ですか!」
「やばくなっちゃってもいいよ?」

 私の言葉に吃驚したように目を見開いた影山君は、何かを言いたそうに口を開いては閉じ、視線を右往左往させている。そして意を決したようにぎこちなく私に視線を合わせた彼は、それまでと少し目つきを変えた。

「き、キスしても、いいっすか」
「……バカ」

 そんなの聞かないで好きな時にしていいよ、と最後の方はあまり言葉にはならなかった。真っ赤な顔をした彼に私から顔を近づけて、意地悪してやろうと直前で止まって見せると、それまでのぎこちなさはどこへやら。即座に彼から重ねられた柔らかく温かいそれは、何度も重ねたり離れたりを繰り返し、噛み付くようなそれへと変わっていった。

「……練習したでしょ?」
「本当、黙ってください」
:)121221

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