東峰旭という男は、見た目に反してとても優しい。いや、優しいと言うよりも、小心者と言った方が正しいかもしれない。

「なあ、名前」
「なに?」
「この間、大丈夫だったか?」
「あーうん。ちょい怒られた」

 その私の一言に、それまで少し申し訳なさげだった旭はカッと目を見開いた。

「え、だだ大丈夫なの? 名前のお父さんって結構怖いって言ってなかった?」
「うん。まあ、少しね」

 あまり詳細を語りたがらない私に余計心配を募らせたのか、旭は私の顔を正面から見つめた。端から見たらこの状況も、カツアゲでもされているように見えるのだろうか。

「ちゃんと俺のせいだって言ったか?」
「言わないよ。だってもうちょっと一緒にいたいって言ったの私じゃん」
「でも、それでも俺は早く帰さなきゃならなかったんだよ」

 珍しく旭と私の予定の都合がついて、あの日は久しぶりのデートだったのだ。時間なんてあっという間に感じて帰り際、少しだけ彼を引き止めた。そしてほんの少し、駅のホームで手を繋いで話をした。それだけだ。しかし刻一刻と門限は過ぎて行き、これ以上はと旭が私を家に送ってくれた時、門限は半刻ほど過ぎていた。たった三十分。それでもお灸を据えられたわけだけど、そんなことは別にたいした苦ではない。ただその後に放たれた父の言葉に衝撃を受けたのだ。

「お、俺ちゃんと挨拶行ったほうがいいよな……」
「え」

 思いがけない旭の言葉につい声がでてしまう。父に言われたのは「彼氏を家に連れて紹介しろ」というものだ。ただ今まで彼氏を親に紹介したのとなんてない上に、前述の通り父はステレオタイプの厳しい人間だ。言ってしまえば旭とは正反対。勿論父の優しさは肉親ゆえに身をもって知っているし、厳しさも私を大切に思う故のことだというのもわかってはいるけれど、それでも旭になんて言うかわからないところがある。そんな父に旭が会ってくれるとも思えなかった。

「俺もそろそろとは思ってたんだけどさ」
「え、あ、旭?」
「ん? なに?」

 だからあまりにもすんなり会おうとしてくれる旭に驚いている。私の心配は親にあって欲しいなんて言ったら、重いやつだと思われて愛想をつかされるのではないかというのもあった。

「あーめちゃくちゃ緊張するなー」

 やっぱスーツとかで行ったほうがいい? あ、でも学生だから制服のがいいのかな。でも俺スーツでも学ランでも余計怖く見えるんだよな……。
 一人で色々と話を進める旭に、珍しく私が出遅れている。

「菓子折りって、なにがいいかな? 和菓子か洋菓子か……」
「ね、旭」
「ん?」
「うちの親に会うの、いいの?」

 少し沈黙が流れ、私の緊張が高まって行く。やだ、告白された時より緊張してるかもしれない。

「大事な娘と夜遅くまで遊んでくる彼氏なんて、親御さんからしたら心配なのも当然だよ。ちゃんと、直接会って俺って人間をわかってもらわなくちゃ」

 旭という人間はこういう人だった。確かに気が弱いけれど、しっかりと相手のことを考えて物を考えることのできる優しさがある。そういうところに私は惹かれたんじゃないか。
 旭の言葉に胸を打たれるような感覚になる。思い余って抱きつけば、旭は少し慌てていた。

「ど、どうしたの名前」
「……私の彼氏が旭でよかった」
「え! き、急になに!? え!」
「ふふ、好きだよ。旭」

 付き合っているのに、普段こういうことを滅多に言わないからか。旭の顔がみるみる赤くなっていった。それをみてからかってやろうかと口を開きかけた直後、旭の表情が真剣なものとなった。

「お、俺も名前と付き合えて、しっ幸せ、です」

 たかが高校生の恋愛に永遠だとかそんなことを言うと世間は笑うけれど、私はこの瞬間自分の未来に旭も共にいて欲しいと強く願った。

「どもりすぎだし、なんで敬語? 三十点」
「ええ! 厳しいよー」
:)140916

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