「思わず惚れちゃう男子の仕草第一位……壁ドン?」
「ちょっと何勝手に読んでんの」
「おい、壁ドンってなんだ?」

 二人分の麦茶をコップについで部屋に戻ると、そこには既にエアコンを効かせ我が物顔でベッドに寝転び雑誌を捲る鉄朗の姿があった。人の部屋に上がっておいてこの寛ぎっぷりは如何なものかと思う。

「麦茶、ここ置いとくよー」
「なあ、壁ドンってなんだよ」
「壁ドン知らないの? てかそこに書いてあるでしょー」
「壁際に追いつめ手を壁につき逃場をなくす……ってこれ恐喝じゃねぇの?」
「好きな男の子限定でっていうのも勿論条件の一つだからね。よく少女漫画とかにあるじゃん」

 雑誌を見ながら「ほー」とか「へー」なんてあからさまな相槌をうつ鉄朗に、少しだけ苛立ちを覚える。

「自分より相手の背が高いことも前提条件だよね。こう、支配されてる感じと視界には相手しかうつらないってのがいいんじゃない?」
「ほー。つーかそれなら思わず惚れちゃう、じゃなくねぇか?」
「それは出版社に問い合わせください」
「なんだその事務的対応」

 ゴロン、と仰向けになった鉄朗は、椅子に座った私を見て少し考えるような間を置いた。

「なに、どうしたの?」
「なんで椅子座ってんの」
「え、だって鉄朗がベッド占領してるから」
「こっちこいって」

 少しだけベッドの端に寄ったことで出来たスペースを、鉄朗がポンポンと大きな手で叩く。断る理由も特にない為、素直にそれに従ってベッドに腰を下ろした。
 その瞬間、急に腕が強い力で引っ張られ、勢い良くベッドに仰向けで倒れこむ。
 視界はニヤニヤした笑みを浮かべる鉄朗でいっぱいで、尚且つ私の顔のすぐ横に鉄朗の手が少し乱暴におろされた。

「な、なに」
「壁ドン。思わず惚れたか?」
「ば、ばかじゃないの? それにこれ壁じゃなくてベッドだし、第一壁ドンって立ったままだし……」
「恥ずかしかったり照れたりするとやたらめったら喋る癖」

 間近に好きな男の顔があって、尚且つ強引に押し倒されたら誰だって少しはときめいたりしてしまうものだ。目の前で私を見下ろす鉄朗の顔は、何時もより髪が降り落ちていて色っぽく思える。立てば首が痛くなるような長身もあいまって、まさに身も心も鉄朗に支配されているといってもいい。その支配されているような感覚でさえも、悔しいけれど嬉しく思えてしまうのだから私は彼に関しては末期なのだろう。本人には口が裂けても言えないけやど。
 しかし雑誌に書いてあるようなことで、まんまとときめいてしまっただなんて知られたら物凄く安直な奴だと思われそうで恥ずかしい。そのような思考を悟られてしまえば更に恥ずかしさは増す。さらにそれを隠そうとして考えるより先に多くを口にしてしまう癖まで見破られているとなっては、とうとう恥ずかしさもここに極まれりというやつだ。

「自分より背の高い、好きな男から支配されてる心地はどうよ」
「べ、別になんとも……」
「素直にドキドキしたって言えって」
「……そ、それにこれ壁ドンじゃなくて、押し倒してるって言うんだからね」
「はいはい。ま、お前が俺に十分なくらい惚れてるってのは知ってんだけどね」
「ね、ねえっ! 手!」

 ティーシャツの下に差し入れられた鉄朗の手を必死に服の上から抑え込もうとしたけれど、最初から食いつくようなキスをされてそちらに翻弄されて手の動きが弱まる。その隙を待ってましたと言わんばかりに動き出した鉄朗の手がブラの上に到達し、ゆっくりゆっくりフチをなぞるようにして撫で上げ、いつの間にか後ろに回り込んでいたそれが、ホックをいとも簡単に外してしまったのだった。

「て、つろ……」
「ベッドドン、じゃなんか言い辛ぇし、布団ドンもなんか……あ、床ドンか!」
「ばっかじゃないの」
:)140816
壁ドン床ドンというと一番に隣室への正拳突き的なものを連想してしまうのですが、かっぷぬうどるのCMは好きです。

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -