おはよう、と隣の友達に言ったら「一限から四限までぶっ続けで寝てるとか信じられない」と笑われた。仕方ないでしょう昨日借りてきた海外ドラマのシーズンワンをノンストップで見てたら朝になってたんだもの。学校に来ただけでも表彰モン。でも流石に寝過ぎたから少し顔を洗ってリセットしてから購買にお昼を買いに行こう。
 そう思ってふと教室を出ようとすると、物凄い勢いで室内を見ている一人の男の子を見つけた。そのただただ見ているという異様さにクラスの女子は怯えているようにも思えたけれど、彼の髪型が格好良くてついつい声をかけてしまったのだった。

「はい! 連れて来ました!」
「アホか」

 スパン、と小気味良い音を立ててモヒカン君を叩いたのは、同じクラスの黒尾君だった。

「あらあら可哀想にモヒカン君」
「山本猛虎ッス名前さん!」
「よしよし虎くん」

 叩かれたところを撫でるという名目で、ずっと感触を確かめたかった山本君の頭を触る。目の前の黒尾君は頭が痛そうな顔をした。

「オイ。そいつはお前の頭触りたいだけだぞ、きっと」
「何言ってるんですかそんなこと!」
「なんでバレたのでしょうか」
「やっぱりな」

 いや、でもそれでも! とよくわからないことを言っている山本君はさておき、私はそんなに感触を確かめたい顔をしていたのだろうか。

「つーかなんで名字なんだよ」
「それは名前さんが唯一俺に話しかけてくれた人だからです!」
「そうか。それはバレー部のマネージャーに必要な条件じゃねぇな」
「で、でも話も聞いてくれました!」
「ちゃんと聞いてたか? 第一名字は俺の知る限りクラスで一番やる気のないやつだぞ。授業中寝てばっかだし、体育もしょっちゅう見学してるし」
「私のこと良く知ってるね」
「五組の奴らはみんな知ってるわ」

 黒尾君に縋るようにお願いをする山本君越しに、夜久君の姿を見つける。そうか、夜久君もバレー部だったのか。体育館内を見渡すとぴょんぴょん飛び跳ねてこちらの様子を見ている男の子や、全く興味がないと言った風にスマートフォンを弄る金髪頭の男の子がいたりと意外と混沌としていた。運動部というだけで山本君のような熱い人たちの集まりだと思っていたけれど、どうやらそれは偏見だったみたい。それぞれがそれぞれの好きなように行動していて、なかなか面白い。

「とにかくだ、本人にやる気がない以上意味ないだろ」
「そっそれはそうですけど……!」

 女子マネが欲しいんだ、という山本君の叫び声に一瞬びっくりする。ずっと思っていたことだが、山本君は普段から大きな声を出していて疲れないのだろうか。

「名前さん……無理矢理連れて来てすみませんでした」
「そうだ。やればできるじゃねーか山本」
「うっ名前さん、表まで、送りますっ」
「あらあらモヒカン君泣いちゃって可哀想に」
「山本猛虎ッス名前さん!」
「オイ、わざとやってるだろ。それ」
「黒尾君はなんでもわかるんだね」
「わざとだったんスか名前さんっ!」

 じゃあ練習はじめるぞー、と踵を返して背中を向けた黒尾君に、どうしてかなにかしてやりたいという思いが湧いてしまった。そして、私はよく考えもせずに、次の言葉を口にしていた。

「私マネージャーやろうかな」
「……は?」

 振り向いた黒尾君の顔のそれはそれは面白いこと。
 飛びつかんばかりの勢いで飛び上がる山本君に、呆気に取られたような表情の黒尾君。そして後ろからわらわらと「新しいマネージャー?」と興味本位で集まってくる人たち。

「なんだか楽しそうだし、最後の一年だし」
「名前さんっ! あなたが女神ですか!」
「名字かー、まあいないよりはいいかもな」
「夜久君それ喜んでくれてるの?」
「マネージャーがいるってなんか高校の部活っぽいッスね!」

 思いの外歓迎ムードのバレー部員たちと、それを見て複雑な表情をする黒尾君。そんな彼の肩を叩いてみる。

「一応挨拶とかしたいんだけど、部長って誰?」
「……俺だ」
「あ、そうなんだ。じゃあいっかな」
「いっかな、じゃねぇよ挨拶しろよ」
「大会の時とか、レモンの蜂蜜漬けつくってくればいいんでしょ? あーなんか南ちゃんって感じ!」
「レモンの蜂蜜漬け! 楽しみッス名前さん!」
「オイ。誰かこいつを辞めさせてくれ」

 こんな黒尾君と、数ヶ月後には部のことについて話し合って、一緒に帰って、試合中にはその真剣な表情から胸をときめかされるだなんて、このふざけた始まりの日に誰が予想できただろうか。
:)140709

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