青葉城西にバスは到着し、日向の具合も大分よくなったように見受けられた。一応一安心といったところだろうかと大地と話をしていると、学習能力がないのかただの馬鹿なのか、日向に向かってプレッシャーとなりうる言葉をかける田中を見つけてしまう。同じように気付いた名前と慌てて田中を止めるも時すでに遅しというやつで、日向は足早にトイレに向かってしまった。

「アイツ、また……!」
「影山?」
「情けねえな! 一発気合いれて……」
「何言ってんのオマエ!? バカじゃないの!?」

 イラついた表情を隠すことなくこぶしを握りしめる影山を、必死に止める俺と名前。試合中の冷静さや頭の良さを、普段にどうして生かせないのだろうか。

「田中! この単細胞押さえろ!」
「オス!」

 無理矢理おさえる田中に、影山に諭すように話しかける名前。この二人に任せておけば大丈夫だろうと胸を撫でおろす。こいつらは普段は馬鹿なことばかりやっているけれど、根っこの部分が真面目で優しいところが似ていると思う。
 今回の練習試合で影山を使うように指定が来た件で、帰り道にこっそりと名前に言われたことを思い出す。

「スガさんはやっぱりすごいです」
「え、なにが?」
「だって、さっきの言葉で影山の心の負担が軽くなりました」
「聞いてたんだ」

 学校からの帰り道。影山からの宣戦布告を受けたあと、名前が周りに気付かれないようにと俺に近づき話しかけてきた。慌てて「盗み聞きしちゃってごめんなさい!」と謝る名前に、別に怒っているわけじゃないことを伝える。

「いつも周りのことを考えるスガさんって、本当にすごいと思います」
「そんなことないよ」
「さっきだって、スガさんが日向と影山の攻撃が通用するのか見たいって言ったことで皆の気持ちも宥めたし」
「それは本心だよ」
「だから少し心配になっちゃいます」
「え?」
「スガさんが、自分のことを後回しにしちゃってるんじゃないかって」

 お節介なこと言ってごめんなさい! と勢いよく頭を下げて、名前は大地の元へ肉まんを貰いに走って行った。その後ろ姿をみて、名前の言葉にドキッとさせられた自分がいることに気付く。
 自分のことを後回しに、か。

「……それと、影山は今日の試合やりづらいとか思ってないんだよね?」
「はい、まあ。そういうの、あんまり気にしないんで」
「じゃあ、王様とかなんか嫌なこと言われても、グッと堪えて反応しちゃダメだからね」
「……ハイ」
「今の味方は私たちだし、影山の側にいつもいるんだからね」
「そうだぞー」

 田中という見張りを隣に置きながら、影山に注意を促す名前の姿を見る。味方、という言葉に影山が少し表情を明るくさせた気がした。やっぱり思った通りだ。こういうときのこの二人は強い。俺や大地もできないわけじゃないが、底抜けに明るくて裏表のない人間のうことは説得力が違う。
 現に青葉城西で元北川第一の生徒の挑発にも周りはひやひやしたけれど、影山はぐっと堪えることができた。それを見た俺も田中も勿論名前も影山を褒めずにはいられなくなって、その思い余って勢いよく影山の背中を叩いた。
 中学とは違う影山を見せてやりたいといったのは本心なんだ。勿論その言葉が影山の気持ちを軽くするということは理解の上だったけれど、それでもチームメイトとしての思いがもう芽生えていて、新しいこのチームをもっともっと強くしたいと思っている。ただ、影山が大切なチームメイトであり後輩であることと同時に俺のポジションはセッターで、試合に出たいという思いがなくなるわけもない。いづれはこの感情を振り切って、俺のやり方を見つけていかなくてはならない。それが例えほとんどを控えとして過ごすという選択肢であったとしても。その決断をすることをほんの少しだけ怖いと思っていることを、多分名前に見抜かれたのだろう。本当に、清水とは違った方向性でできるマネージャーだ。

「よっし、体育館まで先についた方がアイス奢ってもらう!」
「おっまえずりーぞ!」
「影山も入っているよー!」
「えっ、ちょ!」
「おーい! お前ら他校なんだ静かにしろ!」

 走っていく名前と田中と影山に、それを叱りつける大地。いつものことと言わんばかりに気にしない清水。さっきまでの評価に早速傷をつけるようでもあるが、これが名前であり、烏野男子バレーボール部なのだ。

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