夏休みに入っても授業がなくなっただけで、毎日部活で学校へ来ることは変わらなかった。ただそれに不満はなく、最近は自主練の成果も少しずつ出てきていて、あの合宿以来ツッキーもいい感じで、自分でいうのもなんだが充実している気がする。

「あ、山口だ」
「休憩?」

 休憩だろうか。女子バレー部でクラスメイトの名字がスクイズボトル片手に笑う。夏休みに入る少し前、休憩の時間がかぶって話をしてから名字とはよく喋るようになった。

「あっついねー体育館にもクーラーあればいいのに」
「そんなこと言ったら教頭が真っ先に噛み付いてきそう」
「女バレは男バレより印象いいけどねー」
「ウチより印象悪いってそれ相当だよ」
「ふふ。あー暑いなー毎日毎日練習だし、サポーターも洗っても洗っても臭い気がするし。こう、むわぁって」
「へー女子もそういうもんなんだ」
「あ、でも男子の十分の一くらいね!」
「なんでだよ」

 いつも取り止めもなく楽しそうに話す名字は見ていて楽しい。教室での彼女よりも、こうして汗をかいて前髪が額に張り付いた姿の方が見ることが多い気がするのは、男子バレー部の人たちのようでなんだか不思議だ。だから、たまにジャージでも練習着でもない名字を見ると違う人のように思えて驚くほどだ。

「あ、そういえば男バレにマネ入ったんでしょ?」
「それ少し前だけどね」
「いいなー」
「女バレはマネいないの?」
「いないよー他校とかみてもいる方が少ない気がする」

 会話の最中、ふと名字がニヤニヤしながら俺の顔を見つめていることに気づく。

「な、なに?」
「いやぁ、なんか合宿前より楽しそうだなーって」

 合宿で何かあった? と楽しそうに尋ねる名字に、自分の分かりやすさに少し恥ずかしくなる。休憩時間の残りも考えて、ここ最近の男子バレー部の盛り上がりを掻い摘んで説明すると、名字は羨ましそうな顔で俺を見た。

「すっごい充実してるって感じじゃん」
「そ、そんな、でもないけど」
「アハハ、照れんな照れんな」
「なんかうざいなー」
「でも一番嬉しかったのって月島のことでしょ?」

 俺を射抜くような視線に、一瞬ドキッとする。名字の一言に対する答えは、イマイチ自分でもよくわからない。ただ一つ言えるのは、上昇したいという部全体の雰囲気にツッキーもいないと俺は満足できないということだ。

「おーい、そろそろ休憩終わるぞー!」

 日向の声に、なぜだか悪戯が見つかてしまった時のように背筋がビクッと跳ねた。

「ウチもそろそろかな」

 名字は立ち上がり、短パンの砂を払った。俺もつられて立ち上がる。

「じゃ、部活頑張ってね」
「うん。名字も」

 名字に背を向けて体育館に向かおうとした、その時。グイッと肩をつかまれて急なことに足の踏ん張りが効かず、その力になすがまま身体の向きが反転する。

「え、名字……?」
「やっぱ格好良いよ、山口は」

 顔と顔が十数センチという近さだった。名字の瞳の中には俺が映っていて、その赤い唇から発せられた言葉をゆっくりゆっくり飲み込むように咀嚼する。言い終えてすぐにその場を立ち去った名字の背中を暫く眺め、ふと先ほどの日向の言葉を思い出し体育館へと急ぐ。その際も意識すればするほどに顔に熱が集まり、先輩に急げと言われても、コーチの指示を聞く時も、いつだって名字の声が耳について離れなかった。
:)140407

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