※バレンタイン「ぜんぶ、雪のせいだ」の続きです。


 あんな挑戦的な受け取り方をしてしまった手前、ホワイトデーのお返しを何にするかで俺はここ一ヶ月くらい悩んでいた。いつものように母さんに頼めばそれなりのものを用意してくれることは間違いないが、それだと少し納得がいかない。
 そんな時、頼りになったのは谷地だった。学年末の勉強に身が入らない俺を心配した谷地に、ことを大雑把に話す。すると、「私なんかでよければ力になるよ」と実に頼もしいことを言ってくれた。そして谷地が幾つかピックアップしてくれた物の中から一つを選ぶ。そして自分も用事があるからと、谷地はその店まで案内してくれた。くれぐれもバレー部の人たちには言わないように谷地に釘をさしながら歩いていると、道路を挟んで反対側に名前さんの姿があった。咄嗟のことで、どうしようかと考えを巡らせていると、名前さんは俺に気づき、そして少し悲しそうな顔をしてから何時もの笑顔で手を振った。ぎこちなくそれに返すと、名前さんはスタスタと家の方まで歩いて行ってしまった。

「あれ、今のってもしかして……」
「……ああ、よくわかったな」
「え! 何してるんですか影山君! あの人絶対誤解してますよ!」
「誤解?」
「ホワイトデーにこんな可愛い包み持って女の子と歩いていたら、彼女かもって思っちゃいます!」
「それは……」
「もう、追いかけてください! 誠意見せなきゃ!」

 珍しく谷地に背中をドンッと押され、よろめきながらも谷地にお礼を言い、名前さんの背中を追う。後ろから谷地の「頑張ってくださーい!」という声が聞こえた。

「名前さん!」
「と、びおくん……」

 家までそこまで距離がなかったため、名前さんに追いついたのは彼女の家の前だった。肩で息をする俺をやはり悲しそうな顔で一瞬だけ見て、それから名前さんは笑顔を向けた。

「どうしたの? あ、あの子可愛いかったね! 折角のホワイトデーなんだからもっと一緒に過ごしたらいいのに。あ、もしかして門限が厳しいかんじ? 五時すぎで門限ってのも凄いよね。それにしても彼女いないなんて嘘つかないでよー私だって流石にお母さんとかには黙っ」

 息が整ってから、つい衝動で名前さんを抱きしめる。それまで喋り続けていた名前さんは急に停止した。

「……飛雄君?」

 困ったような声で俺の名前を呼ぶ名前さんに、さらに抱きしめる腕に力を入れた。腕の中で俺の胸辺りにある名前さんの顔が下を向く。

「俺、嘘なんてついてないっすよ」
「え」
「あれは彼女じゃなくてマネージャーで、買い物に付き合ってくれただけっす」
「そ、なんだ……」

 少し身体の力を抜いた名前さんに、俺も腕の力を緩め名前さんと顔を合わせる。

「名前さんに、これバレンタインのお返しです」
「あ、ありがとう。これ買うために、あの子と?」
「はい。あんまりこういうの得意じゃないんで」
「見てもいい?」

 頷くと名前さんはブルーの紙袋からリボンが施された包みを取り出し、それを丁寧に開いていった。「凄い綺麗な包みだね」という名前さんに、包装の選択を谷地に手伝って貰ってよかったと思う。

「わあ、可愛いブローチ」

 俺には全く用途がわからないが、谷地曰くお洒落な大学生だったら絶対貰って嬉しいよ! ということだった。名前さんの表情を見る限り、喜んでもらえたようで一安心する。

「これから付けるね」
「あ、はい」

 暫くブローチを手にとって眺めたり合わせてみたりをしてから、名前さんはそっとそれを箱の中に仕舞い紙袋の中へと入れた。

「ありがと、飛雄君」
「いや、どういたしまして」

 沈黙が続く。そういえば、渡したはいいもののその後のことをさっぱり考えていなかった。渡したらそれで気持ちが伝わるような、そんな甘いことを俺は思っていたのだろうか。
 そんな沈黙が数分続いた頃だろうか、先に口火を切ったのは名前さんだった。

「これ、大切にするね」
「あ、はい」

 笑顔でそう言った名前さんは、「じゃあ」と言って背中を向け家に帰ろうとした。つい流れで俺も「じゃあ」と返してしまったものの、名前さんの背中を見てこのままでは良くないという気待ちがふつふつと湧き上がる。気づけばまた俺は名前さんを抱きしめていて、傍から見たら俺が後ろからすがっているようにも見えるだろう。

「名前さん」
「は、い」
「バレンタインのやつ、美味かったっす」
「あ、良かったー」
「で、その……」

 何か上手いことを言おうとしてもなかなか思いつかず、その焦りから名前さんを抱きしめる力を強める。そんな俺に文句を言うわけでもなく、名前さんはジッとしていた。

「……好き、です」
「飛雄君、文脈全然繋がってないよー」
「す、すみません」

 後頭部しか見えないが、名前さんは肩を震わせて笑っていた。その反応に恥ずかしくなり、顔に熱が集まる。

「私のこと、好きなの?」
「っはい」
「そっかーそうなのかー」

 その反応に少しからかわれているのではという疑問からムッとすると、名前さんは隙をついたように俺の腕の中で身体を反転させ、向き直る形になった。

「私も、飛雄君のこと好きかも」

 肩を掴まれ、名前さんの顔が近づいた。キスをされたと気づいた瞬間、顔どころか耳まで熱を帯び、それを見て名前さんはまた笑った。
:)140313

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