ゲーム最初の月島君の挑発で田中が俄然やる気をだした。というか、単純だからやすやすと乗ったのだった。しかし、それは田中の能力を如何なく発揮させるもので、昨晩見た日向君の跳躍も凄まじく、月島君のブロックや影山君のサーブ、そして安定した大地さんのレシーブと、ゲームの流れはどっちつかずとわからない展開であった。一セット目は潔子さんに主審を任せ、私は縁下と一緒に試合をコート脇で見ている。しかし日向君との掛け合いを何度か目にしたからだろうか。どうも影山君の様子がおかしいように見える。トスやプレーは正確なものだけど、そういうことではなくて。

「ホラ王様! そろそろ本気出した方がいいんじゃない?」

 まただ。月島君の挑発に、黙るか小さな反論しかしない影山君。昨晩もそうだけど、普段ならもっと大声でそれこそ田中みたいに言い返すのが影山君じゃないの? 影山君と過ごしてまだ一週間とないけれど、日向君と言い合いを繰り広げる影山君は、こんなんじゃない。

「なんなんだお前!」

 私と同じことを思ったのか。それともただ自分のチームの人間をおちょくられて腹が立ったのか。日向君が月島君に詰め寄った。そして、月島君はここぞとばかりに王様の異名について説明を始める。
 コート上の王様。
 何度か聞いたことはあったけれど、私はその意味をちゃんと理解していなかった。去年の試合を少しばかし見たため影山君の正確かつ横暴なトス回しは知っていた。けれど、私はあの北川第一が負けた最後の試合を見ていない。あの試合で、影山君がベンチに下げられた理由。それが、王様たる意味だということも知らなかった。トスをあげた先に誰もいないのは心底怖いと語る影山君の背中は、私よりも二十センチほども大きいはずなのに、何故だか小さく見える。

「でもソレ、中学のハナシでしょ?」

 その空気を割って入るように、日向君の声が体育館に響いた。

「おれにはちゃんとトス上がるから、別に関係ない」

 影山君のきょとんとした顔。月島君のあからさまにムカついた顔。大地さんと田中が思わず笑ってしまうのも頷けた。日向君の言葉一つで、体育館の空気が一気に軽くなったのがわかる。主審の潔子さんは表情にはあまり出さないけれど、安堵しているのが見て取れた。
 
 試合終了のホイッスルが体育館に響いた。結果は日向君影山君チームの勝利。主審を終えると、潔子さんがお疲れ、とだけ言ってくれた。ぐったりとしている一年生四人を見て、このゲームをして良いものが見れたと思った。それは影山君と日向君の超人的コンビプレイであるのは勿論だけど、一瞬だけでも熱くなった月島君や、埋もれがちではあるけれど山口君の能力の均等さなんかも新入部員を知る上でかなり大きな資料となった。多分だけど、月島君も自分で言うほど悪い人ではないのだということも、今日私が感じて導き出した結論だ。だって本当に悪い人だったら、山口君はあんなに月島君のことを慕ったりはしないだろう。そしてなにより……。

「大地さんもスガさんも、あいつらにあんな攻撃使えるって見抜いてあんな事言ったんスか!?」
「そっそうです! それです!」

 三対三を二セット連続ほぼ休憩なしでやってへとへとになった田中の疑問に、私も大きく首を縦に振る。スガさんのあの一言が、きっかけになったと思えてならないのだ。
 そんなわけはない! と否定するスガさんではあったけれど、大地さんもスガさんも二人の能力をかけ合わせたら……というところまでは思っていたのだという。私にはそれだって十分凄いことだと思うけど。

「四人とも、お疲れ様」
「あ、あざっす」

 新しいタオルとスクイズボトルをへたっている一年生に渡していく。

「影山君も、はい」
「あっす」
「ハラハラしちゃった。でも、格好良かったよ」

 思ったままのことがつい口をついた。ハラハラしたというのは試合展開というよりも影山君自身にと言ったほうが正しい。ちょっと照れたように短くまた「あっす」と言った影山君。その表情のあどけなさに、何故だかつい見入ってしまう。
 握手だなんだと騒いでから入部届を提出し、やっと一年生のジャージを配ると、大げさなほどに喜ぶ日向君と、こういうのは興味がないといった風に着るのを嫌がる月島君に、少しそわそわしている山口君。一年生が三者三様の反応を示すなか、私はやはり、口にはしないけれど嬉しそうに、少し誇らしげにジャージに袖を通す影山君から目を離すことができなかった。それはもう、

「無駄にならなくてよかったな」
「……はい」

 折角話しかけてくれたスガさんの言葉に上の空で対応してしまうくらいに。この時の様子を唯一潔子さんにだけは見られていて、のちに「あの時の名前は頭が変になったのかと思った」と言われることになるのだった。

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