「お、名前おはよー」
「おっおはようございます!」

 朝一番。学校前の坂道をのぼっているとスガさんに後ろから頭をぽんっと叩かれた。一日の最初に会った人がスガさんだなんてなんだか今日はツイている。

「いよいよ今日だなー」
「ですね。あの二人遅くまで練習してたみたいだから頑張ってほしいな」

 昨晩の出来事を思い出しスガさんに言うか迷ったけれど、月島君の態度や影山君の意外な大人な対応の理由が私にはわからないし、上手く自分の中で咀嚼しきれていないため口にすることをやめた。私から見たら月島君が悪者に見えて苛立ってしまった部分もあったけれど、それを決めつけて人に話すことは、まだ時期尚早な気もした。

「そういえば今日、アレ、届いてるんだよな」
「一年生の分のジャージですね。今日のゲームで二人が負けたら、二着無駄になっちゃいますね」

 冗談めかして笑ってそう言うと、スガさんも笑って「だな」と返した。きっと二人が負けたとて、二人の協力する意思というか思いやりというのだろうか、仲間としての自覚があればきっと入部を認めるのだろうけど。でもそれは口にしない。私なんかよりも大地さんと長く過ごしたスガさんがそれは一番わかっているだろうから。
 それにしても、と思う。まだ早い朝の光が色素の薄いスガさんの髪の毛をキラキラと照らして、スガさんの笑顔をより輝かしいものにしている。マイナスイオンとか出てきてもおかしくないと思わせる爽やかなその笑顔を見るたびに毎回ドキドキしてしまう。

「あっ! スガさんおはようございます!」

 そんなスガさんとあと少しのところで校門に差し掛かろうとしたとき。背後から良く知った大きな声と駆け寄ってくる足音が聞こえた。振り返らなくても誰だかわかるけれど、事情を知っているのだから少し空気を読んでほしかった。

「お、田中おはよー」
「名前もおーっす、ってなんだよその顔具合でも悪いのか?」
「べつにー」

 それでも尚私のジト目の理由を問いただす田中に、私は私でムキになってなんでもないと言い合っていると、それを見ていたスガさんにお前ら本当に仲が良いな、と笑われた。
 体育館につくと影山君と日向君がもうすでに準備体操を行っていてちょっと関心する。

「おはようございます」
「あっす!」

 私たちに気がついた影山君は神妙な面持ちのまま挨拶をして、それに反して元気いっぱいと言わんばかりの大きな声で挨拶をしたのは日向君だった。もし私が面接官だったなら確実に日向君に高評価をつけるだろう。

「あっ! 潔子さんおはようございます!」
「おっはようございます!」

 次々に部員が体育館に現れる中、潔子さんの姿をいち早く発見した私は一番に挨拶をしようと大きな声を出した。そして私の言葉が言い終わる前に田中に大声によってそれはかき消された。
 私たち二人が駆け寄ると、何時にも増してアンニュイな表情を浮かべた潔子さんは「おはよう」と何時にも増してクールに言ってのけた。一見冷たい印象を受けるが、これが潔子さんであり、潔子さんの良さでもある。着いて早々に体育館内の状況を把握して、滑り止め用にと雑巾を手に取るところもまた流石だ。

「今日もお美しいぜ潔子さんは……」
「そして頭が良い……」

 私たち二人がぼうっと雑巾を濡らしに行く潔子さんの背中を見ていると、初めて潔子さんを見たのか日向君が美女がいる! と騒いでいた。無理もねえな、と頷く田中の隣で、私も頷こうとしたその時。潔子さんにスガさんが話かけた。なんとはないそんな日常の一部分。普段と変わらないその日常の風景に、どういうわけか今日は妙に胸が締め付けられた。
 何を話しているのかはわからないけれど、二人のその表情や仕草からきっと部活関連のことだとは想像がつく。無表情の潔子さんに、少し真剣な顔のスガさん。二人はどうも絵になっていて、お似合いに見えてしまったのだ。
 そこまで考えてなんて面倒くさい女なんだろうと自分の頬を両手で叩いた。

「えっ!? お前どうした?」

 まだ隣にいた田中が驚いて心配してくるが、そんなことは今はどうでもいい。普段からお世話になっている大好きな潔子さんに嫉妬するなんて私はなんて馬鹿なのだろう。しかも、二人はただ部員としての会話をしたに過ぎない。私と田中だって他愛ない話もするし、いや、むしろ他愛ない馬鹿なことしか話していないようにも思うけれど、それは少し置いておいて私が心配するようなことではないのだ。
 多少強引ではあったけれど無理矢理自分に言い聞かせ、意識を今日の練習に向ける。とりあえずドリンクの準備はできているし、救護用備品についても昨日の終わりに確認したから問題はない。そこまで意味はないけれど自分の靴紐をきつく結びなおしていると、大地さんの声でゲームの始まりが伝えられた。

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