ふいにアイスが食べたくなったり、ジュースが欲しくなったりってあると思う。そして世の乙女たちは減量という目標とその衝動との間で激しく揺れ動く。勿論私も揺れた。それはそれは激しく揺れたのだけど……。

「ありがとうございましたー」

 買ってしまった。せめてシャーベットとかにしたらよかったのに、ちょっと奮発してハーゲンダッツを買ってしまった。しかし、後悔はない。早く家に帰って至福の時間を過ごしたい。いつもより少し早く自転車を漕いで家路を急いでいる途中、学校の脇を通りかかった。そして、そこで私は聞き覚えのある声を聴いてしまうだった。

「ああ、我慢できなかったからああなったのか」

 声のする方へと視線を向けると、そこには月島君の胸ぐらを掴む影山君の姿があった。そばにいる驚いた顔をしている二人は、日向君と山口君だ。木のおかげて多分向こうから私は見えていないはずだけど、これは一体どうしたものか……。一瞬のうちに思考を巡らせていると、意外にも影山君は大人しくその手を離した。

「切り上げるぞ」
「ええ!?」

 鞄を掴んで去ろうとする影山君と、驚いてそれを追いかける日向君。

「逃げんの? 王様も大した事ないねー」

 きっとここに田中がいたら月島君に怒鳴り散らしていただろう。私も月島君のあからさまな挑発に大人げないとわかっていても、頭に血が上っていきそうだ。

「明日の試合も王様相手に勝てちゃったりして――…」

 それは一瞬で、そしてあまりにも綺麗なジャンプだった。
 月島君の背後で高く飛び上がった日向君が、月島君の手からボールを奪った。

「王様王様ってうるせえ!
おれも、居る!」

 日向君以外が茫然とする中、彼はそのまま続けた。

「試合でその頭の上打ち抜いてやる!」

 そこまで見て、自分の手が汗でびっしょりなことに気付く。緊迫した様子にずっと手を固く握っていたからだろう。しかし、日向君を見てもう心配いらないような気がした。もしかしたら最悪、暴力沙汰になって日向君と影山君の入部問題どころか、バレー部が部活停止になってしまうかもと思っていたけれど、もうその心配は必要ないみたい。
 安心して、ふと自転車のかごの中に目をやると、少し汗をかいたハーゲンダッツの姿。不安になって触れてみると予想以上に柔らかくなっていた。泣きたい気持ちを抑えて、私は残りの家路を全速力で自転車をこいだ。

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