昼間の暑さも大分落ち着いて、少しづつ暗くなる空の色をかき氷片手にぼんやりと見る。高校の近くの神社ということもあって、もう十数人の知り合いとすれ違った。けれど、その半数がカップルという苦々しい事実を目の当たりにして、隣の私同様一緒にくる彼氏のいない友人とため息をこぼす。

「あ、影山君だ」
「あーバレー部、かな?」

 先輩もふくめ、目立つ男臭い集団の中に影山君がいた。友人の一言であれがバレー部なのだと理解するころには、その集団との距離は二メートル程にもなっていた。一瞬影山君と目が合ったような気もするけれど、ちょっと考えてからそれがなんだというのだという結論に至った。至るような結論でもないけれど、それほどまでに影山君と私には特別な接点がない。ただ、クラスが一緒で、今たまたま席が隣というだけだ。
 クラスでの影山君はいつだって不愛想で、ちょっと怒りっぽい。そんな影山君と隣の席になったのは、七月の頭にやった席替えだ。うちのクラスは月に一度席替えをするから、二学期が始まったらまた変わる。たまに睨まれているような気さえするし、影山君が隣になってから妙に落ち着かないから正直早く席替えをしてしまいたいとすら思う。
ぼうっと考えごとをしながら歩いていたら、妙に周囲の人が多くなっているような気がしてきた。私とは反対側に流れるその人の波にのまれてはじめて、そばにいたはずの友人の姿が見当たらないことに気付いた。

「え、あ……どこ」

 キョロキョロとあたりを見渡しても友人の姿は見当たらず、行きたかった方向とは逆へ流されるばかり。とりあえず落ち着こうと、連絡をとるためにポケットの携帯電話を取り出すと、画面は真っ暗。二三度電源ボタンを押しても反応がないことから、充電がなくなったのだとわかり絶望した。
 どうしよう。この様子だと見つけられないかも……。
 言い知れようのない不安が急に襲い掛かってきて、視線を右往左往しながら人の波に流される。

「ッオイ!」
「……え」

 強い力で腕を引っ張られ、並木の間に飛び出した私の目の前には思いもよらない人物の姿があった。

「かげ、やまくん……?」
「ぼーっとしてんじゃねえよ!」

 出会い様大きな声を出されたことに少し驚いてしまった私をみて、影山君はバツが悪そうに頭を掻いた。どういうことだろう。どうして影山君が私のことを引っ張ったのだろう。状況をうまく飲み込めない私はただ影山君の次の言葉を待つしかなかった。

「お前とはぐれたから、もし見つけたら教えてくれって」

 影山君の話によると、私とはぐれてすぐに影山君に偶然会った友人は私のことを見つけたら教えてほしいと頼んでいたらしい。花火まで自由行動となった影山君はタコ焼きの買い出しを言いつけられ、そこでたまたま私を見つけたというわけだ。

「あ、ありがとう」
「今日向に電話して連絡してもらうわ」

 友人の電話番号を日向君は知っているらしい。そういえば前に日向君と同じ学校だったとか言っていたような気がする。だからバレー部の集団だってわかったのか。一人合点をしていると、影山君が小さく舌打ちをした。

「繋がんねー」
「人、多いからかな」
「かもな」

 それから三回ほど掛け直すそぶりをした影山君は、最後に盛大に舌打ちをして携帯をポケットにしまった。

「ま、花火始まったら広場に集合するから。そん時でいいだろ」
「花火? もうすぐ始まっちゃうよ?」
「あ」

 時計を見ると花火開始の五分前。さっきより人の増えた目の前に通りを見て、ここから絶好の花火見物ポイントの広場に行くのが容易ではないことがうかがえる。

「この人ごみじゃ、もみくちゃにされるだけだろうしな……」
「人、凄い増えてるね」
「暫く様子見るか」

 木の根に腰を下ろした影山君に倣って、私も隣に腰を下ろす。私に気を使って少し詰めてくれた影山君がなんだかちょっと新鮮。

「ありがと」
「おう」

 暫くの沈黙。そして、影山君がゴソゴソと手に持っていたビニールを開ける音がした。

「ん」

 差し出されたのは竹串で、パックのタコ焼きを広げていた。これはくれるってことでいいんだろうか。

「いいの?」
「合流したころには冷めちまってんだろ」
「そっか。ありがと」

 影山君が一つ食べたのを確認してから、私もタコ焼きを一つ串で刺す。ソースとマヨネーズの味が、お祭りっぽいなと思わせてくれる。

「影山君ってさ」
「ん」
「もうちょっと怖い人かと思ってた」
「は?」

 今も十分威圧的だけど、というのは心に留めておく。怪訝な顔をする影山君がちょっと面白く思えた。

「ありがとね」
「これか?」
「タコ焼きもだけど、さっき凄い心細かったから」

 携帯も使えない状況で影山君に会えなかったらきっとそのまま流されて、やっと抜け出したころにはお祭りを楽しむどころじゃなくなっていただろう。

「大したことしてねーよ」
「てか、影山君私のこと知ってたんだ」
「アホか! いくらなんでも隣のやつのことぐらいわかる」

 ちょっと茶化したつもりだったけれど、想像以上に影山君の反応が面白い。ああ、もっと早く知りたかったな。

「もっと早く知りたかったな」
「あ?」
「だっていつも不愛想でちょっと怖いんだもん」
「……よく言われる」
「気にしてた?」
「いや、慣れた」

 私が二つ目のタコ焼きに手を伸ばすと、残りあと二つになっていた。

「やっと話せるようになったのに、二学期なったら席替えでしょ?」
「そんなもん……」

 遠くで花火の音がした。けれど、その音でも影山君の言葉はしっかりと私に聞こえた。

「隣じゃなくたって話せるだろ」
:)130327

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