真夜中の2時半ごろ、不意にチャイムが鳴り響いた。ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。こんな時間に、しかも出るまで何度も何度も鳴らすなんて、あの双子しかいない。俺は急いで玄関へ向かい、ドアを開けた。

「グーレーイーッ!!」

「ぐえっ!」

「ぎゃー!ちょっとあたしまで上にのっちゃったじゃないの!」

扉を開けるなり、湿気を含んだなまぬるい夏の空気ときれいなブロンドの双子が飛び込んできた。

「お前ら…重い…」

「えっ…確かにあたし最近太ったけど…」

「マジかよー。あたし痩せたぜ、3キロ」

「うそォ!なんで!?」

「水ダイエット」

「あたしそれ2週間で挫折した…!」

仲がいいのはいいことだが、俺の上で話に花を咲かせないで欲しいものだ。くるしそうな(いや、実際くるしいのだが)声で俺がどいてくれというと、ルーシィがあっ、と、短く叫んでルチアと共にどく。
ロングの方が姉のルーシィ、ショートの方が妹のルチアだ。実をいうとどちらもルーシィらしいのだが、それでは紛らわしいので姉の方がルーシィ、妹の方がイタリア語に対応しているルチア、となっている。詳しいことはわからないが、ルチアがショートカットになった経緯でいろいろあったらしい。

「ルーシィは自分にあまいからなー」

「なによー。朝バナナダイエットはルチアより続いたわよ」

「えっ、マジかよ!」

ふたりが泣きながら俺の家に押しかけてきた時はとてもおどろいた(なんとルチアの方は美しいロングヘアを乱雑に切り落としていたし、ふたりとも頬をあかく腫らしていたのだ)。俺は簡易氷嚢を作り、ふたりの頬に当てさせながらルチアの髪をととのえてやった。俺はふたりが落ち着くまで待って、ぽつぽつとルーシィがわけを話し始めるのを聞きながらホットレモネードをだした。髪を切ったわけにさしかかったところでルチアがルーシィにだきつき、あたしがわるかった、と泣き叫んでしまい、それにつられるようにルーシィも、ちがうのあたしがわるいの、とおなじようにルチアをだきしめながら泣き叫んでしまった。あっという間に仲直りしてしまったかわいらしいブロンドの双子を見て、よくわからないままの俺は思い切り笑った。俺に笑われてふたりは顔を見合わせ、涙でぬれた顔で笑いあっていた。それはもう、世界一仲のいい双子にみえた。

「んで、今夜は何しにきたんだ?」

ふたりの話をさえぎるのは些かためらわれたが、目的をきかないことには俺の役割がわからないのでそっときいた。そういうやいなや、ルチアは手に持っていた袋を俺に差し出した。

「これでデザートつくってくれよ!すぐにできるやつでいいからさ」

「お、桃だ」

「カナのバイト先のマスターからもらったの。いっぱいあるからどうぞー、って」

そういい残し、ふたりは両手をくっつけあいながら嬉々としてリビングに移動する。俺はとりあえず何か飲み物を、とアイスティーをふたりにだし、キッチンで袋からだした桃をみてみる。左右対称で、ふっくらとしたきれいな丸み。全体的にあかく色付き、皮の色が濃い部分には白い斑点がついている。果皮のうぶ毛はしっとりと寝ており、指をのせるとやわからさが感じとれた。あまいにおいが手にとらずとも香ってくる。極上の桃だ。しかも食べごろ。俺は冷蔵庫に桃をいれて冷やす(桃は冷やして保管したり、冷やしすぎると甘味が落ちる。最高でも食べる2時間前くらいに冷蔵庫にいれるのがベストだ)。
俺はステンレスボウルを氷でキンキンに冷やし、そこに冷えた生クリームを入れて七分立てまで泡立てる。かしゃんかしゃんとボウルと泡立て器がぶつかる音と、彼女たちの華やかな笑い声がまざる。

「グレイー」

「どーしたー?」

「あたしとルチアってどっちがかわいい?」

顔をあげると、ソファから身をのりだしてこちらをみるふたりと目が合った。どきどき、といったようすで瓜二つな顔が並んでいるのがなんだかおかしくて、俺は笑いながら、ふたりともかわいいに決まってんだろ、と、おきまりの質問におきまりのこたえをかえした。

「ほらぁ、やっぱりあたしたちかわいいって」

「まぁ当然だな」

ふふん、と、得意げな顔をして決めポーズをするふたりがかわいいのなんの。テレビにでている安っぽいアイドルよりよっぽど無邪気で愛くるしい。
そんなことを考えながら、はちみつを大さじ1と2分の1、おろしたレモンの皮をひとつ分、もったりとしたクレーム・シャンティにそれをくわえて混ぜる。泡立て器をシンクに置いて、冷蔵庫から桃をふたつ出して皮をむく。包丁の刃がかんたんに入り、するするとむける皮。ミルキーホワイトとオールドローズがきれいにまざりあっている果肉があらわれた。その球体の桃を手のうえでくし形にする。したたるあまい汁の香りがリビングにも漂ったようで、アイスティーを飲み終えているだろう双子は、いいにおい、と、声をそろえてそわそわしている。

「これいい桃だな」

「だろ?マスターが特別いいやつくれたんだ」

「果肉つぶして炭酸水いれて飲むのもおいしいっていってたわよ」

「あー、それもうまそうだな…」

「ね」

彼女たちは食べることも飲むこともだいすきなのだ(もちろん俺もだいすきだが)。それはとても本能的でありながら優雅で上品な彼女たちの魅力だ。
銀の皿に桃を盛り付け、その横にスプーンでレモンシャンティを添える。最後にレモンの皮のすりおろしをトッピングして、できあがりだ。できあがったデザートののった皿、アイスティーのおかわり、それとフォークを2本。ふたりの座っているソファの前のリビングテーブルにトレーごと置く。
双子はラプンツェルに負けじときらめくブロンドを揺らしながら、うれしそうな悲鳴をだしてソファの上できゃあきゃあとはしゃいだ。

「きゃー!すごいおいしい!」

「さすがグレイー!」

「元気だなお前ら」

「だってあたしたち夜型だもの」

「そうそう、夜に咲く花だぜ」

「ロマンチックでしょー」

「夜に食うと太るぞ」

「グレイそれ禁句!」

「あたしはいいんだ、痩せたから」

「えー!ずるいー!」

この双子はいつだって人生を楽しんでいる。しろいクリームをつけて桃をぱくぱくと食べる彼女たちをみると心底そう思う。俺はすこしだけある後片付けをしにキッチンに戻る。
はた、と、俺は恋人に会いたがっている自分に気がついた。ソファでじゃれ合うふたりはのってきたのかキスまでしだしている。しばらくキッチンにいようと苦笑しながら、俺は恋人に電話をかけた。

「もしもし」

「…グレイ」

電話口で恋人が微笑んだのがわかった。

「なぁ、俺の家こない?」

「…10分かかる」

「最高。あ、先客がいるけどな」

「先客?」

「そ。らぶらぶなブロンドの双子。リビングでいちゃついてる」

おあついのなんの、と、俺が拗ねたようにいえば、俺たちもおあついだろう、なんて恋人がいうものだから。

「はやくあいたい」

桃とレモンとクリームの香りがまざりあう中、人工大理石のカウンタートップにもたれかかってしずかにあまえてみる。
二輪の夜の花が俺を呼ぶソプラノがきこえた。



























もはやsssではない長さになってしまいました(笑)
ルーエドルー+グレイがだいすきなんです。ふたりとぐれくんの絡みがたまらなく好き。…わたしだけな気がします…わたし得ですみません…!
ぐれくんの恋人は想像におまかせします(笑)

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