かぱん、と、フライパンに蓋をすると同時に酒くささと重みを感じた。左に首をふるとにぶい音がした。いたい、と、けだるげな声といっしょに。

「おはようグレイ」

「おそよう」

「はっはっはっ、確かにおそようだな」

キッチンにあるちいさな壁掛け時計は9時38分をさしている。目元、ほっぺた、耳、と規則正しく順番に毎朝一方的にされる「おはようのキス」をするジークを横目でみる。スペクトラムブルーの髪は寝起きのせいであちこちはね放題ですこし幼くみえる(俺はそんな寝起きのこいつが結構好きなのだが、いえば調子にのって面倒なことになるのでいわない)。

「なにをつくっているんだ?」

くびをなめてくるあたりでさすがに暑苦しいと感じ、周囲から「かっこいい」と称される顔をぐい、と、うしろに押し退けた(背後から抱きしめられるようにしてまわされている腕をひっぺがすのは困難なので放っておく)。

「めだまやき」

「…かわいいな」

「…わけわかんねぇよ」

ため息をつき、水滴がうちがわについたフライパンの蓋をあけた。しろい下地の上にきいろのまるがふたつ、ならんでいる。さすがに自分の分だけというのはどうかと思い、ななめ横で目をかがやかせている恋人の分もつくってやった。こんな単純なもの彼はよろこびを感じるのだ。そういうところがすごく、俺は気に入っている。

「ハート」

「は?」

「ハートにみえないか?このめだまやき」

下側の方がくっついてしまっためだまやきは、いわれてみるとたしかにハートのようにみえた。ぶわぁ、と、頬があつくなる。それをみてうれしそうにはしゃぐジークが目に浮かんだ。

「グレイ?」

急にうつむいた俺の顔をのぞこうと身を乗り出したジークの顔に、水滴たっぷりのまだあたたかい蓋を押し付ける。
鼻のあたまに絆創膏を貼ったジークは、ハートをさかないようにひとつの皿でこのめだまやきを食べようと提案するのだ。























偶然ほど運命を感じるものはなかったり、ね(笑)

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