深夜2時をまわった妖精の尻尾のギルドは相変わらずさわがしく、けれどさすがに酔いがまわっている奴がおおいので昼間のようにぎゃあぎゃあとばか騒ぎをするやつはいないようだ。
からんでくる酔っ払いを適当にあしらって、奥のカウンターへ進む。

「グレイ」

「あっ、ロキ」

「久しぶりだね」

カウンターでミラちゃんとはなしていたグレイはおどろいた様子で僕をみた。グレイの右隣のスツールに腰掛けると、ミラちゃんは気をきかせて僕らとは逆側のカウンター(レビィとルーシィがなにかの話で盛り上がっているようだ)のところへいってくれた。

「いいのか?」

「なにが?」

「俺のとなりで」

僕はグレイをあいしている。グレイのどんなところも胸をはってあいしているということができる。
けれど、グレイのこの苦笑いだけは、すこし苦手だった。

「僕があいしてるのはグレイだからね」

「まーたお前はそうやって」

そういってグレイが苦笑いからおだやかな笑みにかわるのをみると、どこかで安心する自分に嫌悪した。
からんからん、と、グレイがグラスをまわして音をたてる。きれいな正方形のこおりにはどれも気泡がひとつもはいっていない(きっとグレイが自分でつくったこおりだ。こんなにきれいなこおりは普通はつくれないだろう)。

「それ何のんでるの?」

グラスにはいった琥珀色の液体がなんなのかはだいたい想像がついたけれど、頭ごなしにしかると彼の機嫌はわるくなるので、まずはソフトに聞いた。

「ウィスキー」

ああやはり。僕は眉尻をさげて、こまったなぁ、という顔をするが、グレイは相手にしていない。うすぎりにしたフランスパンに鶏肉の燻製とサワークリームをのせたものをばりばりと食べ、ウィスキーをジュースのように飲む(彼は実際、そんなに酒によわくないし酒慣れしている。けれど俺はいつだってグレイが心配でたまらないのだ)。

「未成年でしょ」

「ちゃんと割ってる」

「そういう問題じゃないよ」

「…」

説教モードにはいりそうになるといつも彼はだまりこむ。こうなったらこちらが折れるしかないのだ。下手にしかりつづけると数日間無視される。
グレイは指についたサワークリームをぺろりとなめ、不機嫌そうに僕をにらみつけた。行儀がわるい、と、たしなめようとおもったが、なにぶんいろけがいつもの5割増しだ。ちょっとしたしぐさも核爆弾並みの破壊力を持つ。からだのどこかがあつくなり、これ以上まどわされてたまるか、と、必死にグレイから目をそらす。

「スケベ」

心臓がくちから飛び出てそのまま跳ねて天井を突き破って夜空にうかぶ星になるかと思った。依然として星になろうとしている僕の心臓はばくんばくんとうるさく高鳴り、ちっともおちついてくれない。とりあえず心当たりがある下半身を確認する。なにもない。疑問に思いながら顔をあげると、おなかをかかえて大笑いしているグレイが目にはいった。
ぼあ、と、今度は顔があつくなる。

「あのねぇ…グレイ…」

「ひーっ、ひーっ、あほだ…!」

「…こういう冗談はよくないからね」

涙目になるくらいわらった彼は、はいはい、と、いいながらのこりのウィスキーをぐびぐびと飲みほした。再びグラスのこおりがさわやかな音をカウンターにひびかせる。
ミラちゃんにウィスキーを催促しようとする口を、おかえしのように一瞬でふさぐ。

「…ちょ…っ」

不快そうに顔をゆがめ僕を押し返すも、人間、酔いがまわるといろんなところが麻痺したりにぶくなったりするせいで全然きかない。お酒なんか飲むからだよ、と、胸のうちでつぶやいてこんどはカウンターにおしたおした。さすがに顔をあおくした彼は、悪かった、と、あやまる。ちょっとやりすぎたかもしれない。

「お酒はハタチになってからだよ」

「あ、そっち…」

「冗談のも1割入ってるからね」

「…はい…」

腕をひいてスツールに座りなおさせ、あらためてキスをする(ちなみにさっきのも今のも、まわりのみんなにみえないように配慮したキスだ)。今日のグレイはキスに対しては積極的なようで、くびに手をするりとまわされた。おとなみたいだ、と思う。

「かえる」

グレイのしたくちびるを噛み、僕は、うん、と、返事をして顔をはなす。おくっていってのおねだりはにぎられた手で充分だ。ルーシィに事情を話すと「はやくいってあげなさいよ」と、おこられて、更にはしっしっ、と、手をふられ邪魔者あつかいされてしまった。落ち込みながらグレイのもとへと戻ると、一連の流れをみていたようでおかしそうにわらっていた。ルーシィにおいはらわれてやんの、と。僕がむっとした顔をすると、彼は僕の頭をよしよしとなでてくれた。
彼にいわせると、新しい僕の髪型は「ライオンみたいにふさふさしていてしたたかな勇ましい髪型」だそうだ。基本、他人に髪をさわらせるのは好きじゃない(完璧にセットしてある髪型をみだされるのは誰だっていやだろう。くわえて僕の場合さわってくるのは女性ばかりだから、へたにさわらせると香水やら化粧やら、いろんなにおいが髪にねっとりとはりついてしまうのだ)。

「髪さわっていいか?」

けれどグレイはべつだった。

「どうぞ」

もちろん、女性みたいににおいの心配はないのだが、髪型をみだされるのに性別は関係ない。最初は、グレイのたのみならしかたないのでしぶしぶ了承というかたちだった。

「あー」

今ではグレイがいい出さなければ自分から「今日はいいの?」と、いってしまうほどだ。よくわからないが、グレイにさわられるのはたいへん気持ちがよかった。

「ん?」

「ワックスくさい」

「そりゃ当たり前だよ」

グレイのさわり方は、まるで大型動物と接するように豪快でやさしい。僕はベッドに腰掛けてグレイは膝立ちになり(前が後ろか右か左かはたまたななめか、その日のきぶんによって彼の立ち位置はかわる)、そのままだきしめるようにして顔をつむじにおしつけ、髪を指ですいていく。

「うおっ、かてー」

「今日はいつもより多めにつかったかもなぁ。時間なくていそいじゃったから」

ていねいにていねいに。どんなに整髪剤でがちがちな時でも、彼は僕がいたくないように気をつけながら整髪剤をとろかすように僕の髪をすくのだ(実際シャワーも浴びてないのに整髪剤はおちるわけがなく、たしかにそれらは髪についたままなのだが、いつのまにかもとの落ち着いた髪型になっている)。
それがとてつもなく心地いいのだ。じつに眠気を誘うので、居眠りしないようにいつも頑張って目をあけている。なにかのマッサージなのか、と、きいたことがあったが、まさか、と、即答されてしまった。これは一種の才能なんだろう。ヘッドマッサージの才能、とはまた違うかもしれない。もしかしたら僕たち星霊だけにきくものだろうか。今度アリエスにすすめてみよう。だめだ、ねむい。

「ぐ、グレイ…」

「なに?」

「ごめん、限界…眠気が…」

そういうとグレイは、ぱっ、と僕の髪から手をはなし、うしろから僕をだきすくめた。眠気はうそのようにとんでいき、意識がはっきりした僕は胸で交差された彼の手をにぎる。

「おつかれ」

ぽっかりとあいた穴を、彼はふさぐのではなくてなかったことにしてしまうのだ。

「グレイもおつかれさま」

と、僕が返すと、グレイはいきおいよく飛びついてくる。前かがみになってしまったからだを起こして、僕も負けじとグレイの方にからだを向けてとびついた。

「とうっ」

「あほロキー!」

しろいシーツをしいたベッドが僕たちを迎えうつ。ばふん、と、いう音とともに、僕たちは陸にあげられたさかなのようはねてころげまわって、それからお互いをだきしめた。

「グレイ」

「なに」

「たのしい?」

「たのしい」

うふふ、と、形容されるであろう女の子がするみたいな笑み(彼がやるのは、女の子がやるよりずっと女の子らしくてかわいくて、上品で清潔なうふふ、なのだが)に、僕はとろとろにされてしまう。
僕の鼻先とグレイの鼻先をくっつけて、あのね、と、僕はいう。しっかりと目をみて。

「僕はね、グレイのどんな表情もすきなんだけどね」

ひとつひとつの単語を慎重にえらんで、あせらずに発音していく。グレイはなにもいわずにきいてくれていた。

「苦笑いだけは、すこし、苦手なんだ」

僕がいいおわるとグレイは、ぺたり、と、頬にてのひらをあてた。グレイは僕が大の苦手としているかなしそうな苦笑いで僕にキスをする。
どうしよう、泣きそうだ。すごく、泣きそう。僕、が。

「俺がこの顔すんのは、ほんとにどうしようもなくかなしい時だから」

グレイの頬にぱたぱたと涙がおちる。その落涙はいうまでもない、僕のものだった。
グレイは、だから、と、つづけて、上にいる俺の背に両腕をまわして自分の方へひきよせた。グレイの右肩が濡れる。

「俺にも、もちろんロキにも、どうすることもできないんだ」

ごめんな、と、いう彼の右目のからこめかみにかけて涙がながれるのがわかった。泣かせてしまったことより、こんな話をさせてしまったことに僕は後悔した。ばかだ。なんて自分勝手なんだろう、僕は。

「でも、ありが、とう」

グレイは僕の後頭部をなでながらピアスがついている耳に口をあて、涙声でつぶやいた。

「ちゃんと、いってくれて」

ああ、なんてとおい。いま誰よりもグレイの側にいるのは僕なのに。キスだってセックスだって、だきしめるのだって、僕は誰よりもグレイとたくさんしているのに。
どうしていつまでたっても僕たちはこんなにとおいままなんだろう。
どうして僕は片思いのままなんだろう。

「俺は、ロキが好きだよ」

僕もグレイが好きだ、と、いえないのは、好きの種類が、おもさが、あまりにもちがうからなのだ。ウィスキーのにおいが鼻をかすめて、僕はこどものように声をあげてグレイに泣きついた。
泣きながら、ごめんね、としかいうことができない僕がひどくなさけなくて。いっそ軽蔑してくれたら、と、願うも、やさしく僕に接してくれる彼のやさしさにあまえている僕は、意気地がないよわむし以外のなにものでもないんだ。
























(どうしてグレイは僕のことがいちばんじゃないんだろう)(どうして僕はグレイにやさしさをもらってばかりなんだろう)



























獅子に楽園はなく































らぶらぶと思いきや実は片思いでした。
わたしはロキをかなしい役回りにさせるのが好きなのかもしれない。ロキにはとっても申し訳ないのだけれど、ロキはひれんでかがやくタイプだと思ってしまっているので。ふふ(笑)
そいでもって意外にロキはぐれくんに直接的なあいじょうをもらえる子とも思っているので、らぶらぶもやってみたいなぁ。きっとガムシロップをはいちゃうくらいあまいんでしょうね(笑)

お題はたかいさまの「」より


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