「あ、あの…グレイ様…」

ジュビアは、グレイ様がすきです。

「あん?」

ギルドはいつもどおりさわがしく、わらい声が建物いっぱいにつまっている。グレイ様は人の輪の中心にいて、まだ名前をおぼえてない仲間(はやくおぼえなきゃとは思っているのだけれど、なにしろあまり話かけられないし、話かけてもうまく会話がはずまない)と、魔法をつかってなにかをしていた。
このギルドにはいってよかった、と、毎日毎日ジュビアは思う。

「依頼…、い、いっしょに…いってくれないでしょうか…」

グレイ様のお気に入りのタンブラーには、これまた最近お気に入りのライムジュースが入っている。240ミリリットルのタンブラーにはキューブドアイス3個がいい、というグレイ様のこだわりを思い出してなんだかすこしうれしくなった(おしえてもらったその時以来、私もキューブドアイスを3個にしている)。
グレイ様といっしょになにかをしていた名前をしらない仲間は、グレイ様の氷の魔法と、おそらくその方がつかう色彩関係の魔法でなにかをつくっていたらしく、グレイ様がジュビアの方へ振り向いた(その方には申し訳ないのですが、とてつもないうれしさなのです!)せいか、その手をとめてしまった。

「おー。ちょっと待ってろ、これがうまくいったら準備するわ」

「…!は、はい!ありがとうございます!」

ジュビアから、グレイ様を依頼に誘ったのははじめてだった。まさかオーケーしてくれるだなんて、夢にも。うれしさで心臓がばくはつしてしまいそう。
最初の頃は新入りということでマスターから「面倒をみてやってくれ」とたのまれたらしく一緒に依頼をこなしていた。そして雷神集の一件後、カナさんをはじめ前よりはずっと多くの仲間から話かけてもらえるようになった。みんないい人ばっかりで、こんな素敵なギルドにジュビアはいてもいいのだろうか、と、考えてしまうほどだった。けれど、いろんな方となかよくなればなるほどグレイ様はジュビアを依頼に誘いにこなくなってしまった。あたりまえといえばあたりまえだった。グレイ様はジュビアと一緒の依頼に固執する理由なんてないのだから。やさしい方だから、もしかしたらジュビアのためを思って誘いにこないのかもしれない。もっとたくさんの仲間となかよくなって欲しい、満足するまでギルドにとけこんで欲しい、と。それは考え過ぎかもしれない。けれどジュビアが手をふればわらってふりかえしてくれるから、グレイ様に嫌われたわけではない。それでもジュビアはグレイ様と一緒に依頼にいきたかった。ジュビアがグレイ様に固執する理由はかんたんだった。
グレイ様が、すきだから。ジュビアはグレイ様に「骨抜き」にされてしまっているから。

「あの、なにをつくってらっしゃるんですか?」

きいてから、しまった、と、思った。邪魔をした張本人が、またさらに余計な口をはさんで邪魔をしてしまったのではないだろうか。あやまろうと口をひらいた瞬間、名前をしらない仲間がみじかく、あっ、と、叫んだ。

「ジュビアちゃんに手伝ってもらえばできるかも!」

「えっ」

名前をしらない仲間に名前を呼ばれたことと(ああこの方の名前はなんという名前なのだろう!)、よくわからないけれどジュビアの力が2人をお手伝いできるかもしれないということ、ふたつのうれしい驚きに間の抜けた声がでてしまった。

「あの、俺の彼女が今日誕生日なんだ。花屋の子で花がなによりだいすきでさ。なんか心にくるプレゼントが欲しいんだけど、普通の花じゃつまらないから氷でできた薔薇とかどうかな、と思って…」

「すごい…!ぜったいよろこびます!」

「んで、グレイの氷の魔法と俺の色彩魔法でつくろうと思ったんだけど…これがうまくいかなくてさ」

「俺の氷にうまく色がつかねーんだよなぁ。みてみろ、これ」

グレイ様の手のひらにあるのはまぎれもなく氷の薔薇、なのだけれど肝心の色、つまりあかとみどりがぐちゃぐちゃに入り乱れていてきれいとはいいがたかった。なんといっていいのかわからず言葉をつまらせているジュビアに、グレイ様は、無理にフォローしなくていいからな、と、いってくれた。

「俺の魔法はあくまで氷の造形魔法だからな。しかもどっちかとっつーと魔力を圧縮して生み出すタイプだから、どうしても出来上がった氷に手をくわえるのはむずかしい」

「おまけにグレイの魔力はつよくて純粋、さらに他者の魔力の介入をあんまり好まない、ダイヤモンドみてーなワケよ」

「けど、お前の魔法は魔力を放出するタイプの水の魔法だ。お前の水にコイツが色をくわえて俺が薔薇をつくりゃあいい。魔力の方は…まぁ例え他者の魔力の介入を好まなかったとしても、俺がお前の水を凍らせられるのは前戦った時に実証済みだからな」

「頼むジュビアちゃん!協力してくれないか!」

ぱちん、と、手をあわせて頭をさげる仲間の頭をいそいであげてもらって、ジュビアは緊張でばくばくする心臓をおさえつつ、がんばります、と叫ぶ。グレイ様は、よかったな、とその方の肩をやさしくたたいた。

「よーし!じゃあまずはジュビアちゃん、お願いします!」

「ちいさい水の球体をふたつつくってくれ。割合は上が2、下が3だ」

「は、はい!」

こんなにちいさな球体をつくるのははじめてで(なにしろ球体をつくる時に頭にえがくのは人をつつみこむくらいのおおきさだった)、最初は水がはじけてうまくできなかったけれど、魔力が拡散しないようにおさえこみ、なんとか2対3の水の球体をつくることに成功した。

「ジュビアちゃん、そのままがんばって!」

名前を知らない仲間は上の球体のなかにすこし手をいれて、しずかにてのひらをあわせる。戦闘の時のように水のなかの物質と魔力を圧迫しないように、ジュビアは水の魔力を極力うすくする。

「ダイ」

ローズレッド、と、その方がいうと、無色透明だった水の球体が中心から外側にむけてあかく染まっていく。同じ要領で下の球体をみどりにそめると、グレイ様がうしろからジュビアをだきしめるようにして水の球体にふれる。ジュビアはとにかくびっくりして、その気持ちがあらわれたように球体はばちゃりばちゃりと盛大にあばれはじめた。

「はわわ…!はわわわわ…!ぐ、グレイ様…!!」

「うおっ!お、落ち着けジュビア!」

「ははは…はい…わわわわかりました…!」

ジュビアがびっくりしたことにグレイ様も驚いたらしく、あわててジュビアから離れてなだめる。ジュビアは落ち着くためにふかく息をすいこみ、ゆっくりとはきだす。それを数回繰り返すうちに球体はもとのようにしずかになり、ジュビアの顔のあかみも完全にではないけれどひいていった。

「わりぃな、急にうしろから」

「いいえ…!大丈夫です」

むしろもっとしてくれても、という不純な発言をなんとかおさえてグレイ様の方に向き直り、ふたつの球体を混ざり合うぎりぎりまで近づける。
グレイ様のきれいな手がジュビアの目の前にのびて、てのひらとこぶしの間にふたつの球体をはさみ、そのままふたつの球体のわずかな空気のすきまで、とん、と、てのひらとこぶしを合わせる。

「アイス」

グレイ様は手を球体から抜き取り、右手で下のみどりの球体を、左手で上のあかの球体を、やさしくにぎり、同時にふわり、と、はなす。

「メイク」

茎や葉や花弁や棘やらが目にみえるはやさでかたちづくられていく様はとてもきれいで、ほんものの薔薇のようにつぼみがひらいていくグレイ様の演出には泣きそうになるくらい感動してしまった。
それなのだけれど。目の前のグレイ様がまぶしくてまぶしくて。氷の薔薇がかすんでみえてしまう。「どんな花にもあなたにはかなわない」と、映画かなにかで聞いたことがあるこのことばは、今のグレイ様のためにあるようで。まっくらな夜にひとつうかぶ街路灯のようにただそこにいるだけのしずかな笑顔が、うつくしくて目がくらむ。
ああ、もうどうしようもなく、ジュビアはグレイ様が欲しいのです。

「できたあー!」

「スゲー!お前ら!」

「うわぁ、きれー」

「よかったな、コローレ!」

湧き上がる歓声にはっとしてまわりを見渡すと、いつのまにかさっきよりたくさんの人が集まっていてジュビアはその輪の、しかも中心に、いた。

「コローレ…さん?」

首をかしげて半泣きでグレイ様から氷の薔薇を受け取る男性に、おずおずと話かけてみると、その方は顔をほころばせてはんぶん泣いてはんぶん笑いながらぎゅう、と、ジュビアの両手をにぎってくれた。

「ありがとう、ありがとう、ジュビアちゃん」

なんどもなんども、ありがとう、ありがとう、と、くりかえすコローレさんはほんとうにうれしそうに泣くので、おもわずジュビアも泣いてしまった。自分でもなんて単純なんだろう、と、思ったが、うれしさが涙をぼろぼろとあふれさせていく。ジュビアにつられてほかにももらい泣きをする人が増え、グレイ様は、みんな泣き虫だな、と、とわらっていた。

「じゃあ、グレイとジュビアちゃん…それとまわりのみんな、ありがとう!時間だからそろそろいってくる!」

まっかなリボンがむすばれた(ミラさんにラッピング、といわれてついさっきむすんでもらった)きらきらとすきとおる氷の薔薇をかかえて、コローレさんはギルドを後にしていった。
コローレさんがみえなくなり、まわりのみなさんはそれぞれの席にみちたりた笑顔でかえっていく。
しあわせ。そう、しあわせ。こういうことをしあわせ、というんだ。

「いやー…いいことしたな」

グレイ様のタンブラー(中の氷はすっかりとけきってしまっている)の下にひいてあるコースターは水滴でふにゃふにゃになっていた。

「魔法はたたかう為だけにあるんじゃねーんだ。こんなこともできんのヨ」

ライムジュースをいっきに飲み干すと、グレイ様は横目でジュビアをちらりとみていたずらにわらった。

「そういうとこもひっくるめて、俺は魔法がすき」

その笑顔に、そのことばに、ジュビアは心臓がしめつけられて、まるで魔法をかけられたようにその場からうごけなくなってしまう。
すきです。すきです。だいすきです。
魔法も、このギルドも、まわりのみんなも、コローレさんも、ミラさんも、まっかなリボンも、カナさんも、ルーシィも、マスターも、エルザさんも、ナツくんも、ふにゃふにゃのコースターも、ハッピーさんも、ガジルくんも、ライムジュースも、240ミリリットルのタンブラーも。
それでも、ジュビアはあなたが、いちばん、

「すき、です」

たくさんの「だいすき」のなかで、なにがあっても揺るぎないジュビアのいちばんの「だいすき」は、グレイ様への「だいすき」なんです。

「そりゃよかった」

ジュビアのだいすきな笑顔のグレイ様はタンブラーを、ことん、と、おいて立ち上がり、依頼の準備をしてくる、といって自分の家へ向かっていった。
グレイ様はいつもジュビアにたくさんのしあわせをくれる。きれいで、まぶしくて、澄んでいて、こころがあったかく透明になっていく、しあわせ。それはグレイ様に負けた時はじめてみた雨あがりのたいようのように、ジュビアのなかでたいせつなものになる。そしてジュビアは、もっともっと、グレイ様をだいすきになってしまうのだ。

「グレイ様」

ジュビアはあなたが欲しい。
たとえどんな障害があるとしても、ジュビアはあなたと一緒にいたいんです。

「ジュビアはがんばります」

あなたのいちばんになれるよう、ジュビアは今日も全力を尽くします。
























(いうなれば、草木をそだてて地をうるおす、そんな雨)(あなたをしあわせにする、雨に)






















甘雨





























な が い !
ついにやりました、ジュビグレ。ジュビアちゃんは公式で思考が攻めっ子過ぎます。素敵。
なんだかんだでぐれくんの王子にいちばんふさわしいのはジュビアちゃんかもしれない。つよいし、かっこいいし、かわいいし、ぐれくんだいすきだし、男前すぎるし、やさしいし、うん!(…)

お題はたかいさまの「」より


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