屋上の鍵をぶっ壊してこんな空間をつくってしまったのは誰だったか。

「こーぶら」

それは目の前で俺にむかって手招きをする先輩だ(正確にいうと鍵は先輩が壊したのではなく筋肉が尋常じゃないくらいついているアメフト部のごつい男なのだが、頼んだのは先輩だった)。

「こいよ」

さすがに至近距離での手招きは無視することが出来ず、俺は片手に持っているどくだみ茶のパックジュースをすすりながら先輩のとなりへ座った。
今年は異常気象そのものだ。今月は春まっさかりの5月だというのに、マフラーが必要なくらいさむくなったり、半袖でも汗をかくぐらいあつくなったりする。今日は後者だった。

「さぼりですか」

「俺の教室クーラーいかれててあっついんだよ。もー蒸し風呂状態で授業なんか出てらんねー」

先輩が座っているところは屋上の入り口のすぐ右側、フェンスと校舎の間にあるすきまだ。絶好の日陰ゾーンのすきまで涼む先輩は、なんだか別世界の生き物にみえた。
先輩には脱ぎ癖がある。それはこの学校では有名なことであり、それは必然的に先輩が有名人であることもさしている。けれど今日はめずらしく脱いでいるのは学校指定の濃紺のブレザーだけだったので、不思議そうにじっと見ていると先輩は首をかしげて、なぁに、の、ポーズをした。
なるほど、これは、やられる。

「なぁ」

先輩は惚けている俺をみてにやりとわらい、壁にあずけていた背中をうかせて右斜め前から俺をみつめた。へびに睨まれたかえるとは、こういうことをいうのだろうか(俺はどちらかというと見た目やペットのせいもあり、へび、と自負していたのだが、今回ばかりはうごけないかえるになってしまっている)。

「お前キョコンってホント?」

俺は口にわずかばかりふくまれていたどくだみ茶をおもいっきりふき出した。むせはしなかったが、足をなげだしていたので太ももから膝くらいにかけてまばらにしみをつくってしまった。
先輩は腹をかかえて大爆笑している。

「お、おま、古典的…ッ、だな、はっ、腹いてーわ」

「…笑えないですよ」

このごに及んで俺の右肩に顔をうずめてわらう先輩がかわいいとおもうのは何事なんだろうか。ばかなんだろ、と、いうように頭上の鳥は旋回してどこかへいってしまった。覚えてろ鳥野郎、今度会ったらキュベリオスの餌にしてやる。
有名なのは脱ぎ癖だけではないと知ったのは去年の夏だ。うわさというのはおそろしいもので、1年の俺たちにもあっという間にそのうわさはやってきた。

「2年のグレイ先輩ってヤリマンらしいぞ」

まぁ、うわさというのは大概ややまちがったかたちで広まるのだが。
正確にいえば、気に入った奴に声をかけて骨抜きにしたあと、つっこませるだけつっこませて飽きたら、ポイ、だった。すてられていった生徒は数知れず(なんせ先輩の対象は全学年だ)。すてられたあともしつこく付きまとう陰湿な輩はいつの間にかフクロにされて病院行きだ。

「つーかどくだみ茶って…コレどこで売ってんだ…」

つまり、魔性。

「どれ、ちょっと挑戦してみるか」

まさに魔性の男だった。

「男同士で間接ちゅーだけど気にしねーよな、コブラは」

最初はうそだと思った。この学校は地区でも有数な男子校だ。女がいない禁欲的な状況で頭がわいた奴がこんなうわさを流したんだろう。こんな妙なうわさをたてられた先輩を気の毒にさえ思った。
しかし俺はそのうわさを事実だと認めざるをえなかった。ついに1年にも被害者がでたのだ。最初は2、3学年にしか手をださなかったのだがどうやら年下の味もみてみたいと考えたようで、手頃なやつからくいものにされた。先輩に骨抜きにされたやつはゆっくりと増えていく。そう、今もまた増えようとしているのだ。
俺は先輩のゆびやこめかみや髪や目やくちや耳たぶや下まつげをみる。それらはすべて、さわってしまったら、しゅわしゅわとラムネのようにあわと一緒にきえてしまうようにみえた。なかのビー玉がからん、と、音をたてる前に、あとかたもなく全部きえる、そう思った。

「コブラ」

と、先輩は俺のくちびると先輩のくちびるをすりあわせてからすこし離して、みじかく、しかしはっきりと俺の名前を呼んだ。
あたまが、くらくらした。

「間接じゃたりないか?」

太陽にまけないくらいぎらぎらとした先輩の目が俺をとらえる。俺の目はすでに先輩よりもぎらついていた。

「せん、ぱ、い」

汗ひとつかいてない先輩のからだは、だきしめるとぬるかった。教室のクーラーが壊れて涼みにきたなら汗のひとつやふたつかいているはずなのに、先輩のワイシャツはすこしもしめっていない。つまり俺はまんまと先輩にしてやられたのだ。

「絶対くると思った」

にやり、と、勝ち誇った笑みのまま、先輩は俺の胸に顔をおしつける。先輩の髪からはみずみずしいマスカットをかじった時のかおりと、お風呂あがりに太陽のひかりをたっぷりすいこんだタオルでからだをふいた時のかおりがした(つまり、とてつもなくいいかおりなのだ)。
ひかげのコンクリートはひんやりとつめたくてごつごつとかたいのに、俺の内側は沸騰したようにあつくてどろどろにやわらかい。

「屋上でアオカン、てのも意外といーもんだぜ?」

「いいん、ですか、俺みたいな、やつ」

間違いなく、頭がわいてるのは先輩と俺だ。

「お好きにドーゾ、コブラくん」

先輩に飽きられずにするにはどうしたらいいか、俺は頭をフル回転させて考えながら先輩をコンクリートの上におしたおした。どくだみ茶のパックはぱたりと倒れ、なかみをこぼしていく。
すこしだけ、先輩がなきそうな顔をしていた。























なんでもいいから、おれは、あなたと






















(あのグレイ先輩の本命ができた、といううわさが学校中をかけ巡ったのは、もうすこしあとのおはなし)

























実はコブラくんが本命だったていう…えへへ(…)
ぐれくんは自分からこんなに毎回仕掛けるのははじめてで、いろいろ不安になったりどきどきしてたらかわいいなぁ。本命とおあそびのちがいがまだよくわからないけど、とにかくすきすきだいすきだからくっつきたい!って気持ちを全面におしだしてコブラくんにあたっくなぐれくんなのです。
コブラくんはコブラくんで、惹かれてるんだけど、やっぱりあそびなのかな…とどっかでうたがってて、それでもいいかとおもうタイプだと。でもなんとなくコブラくんは内面が脆いイメージがあるので、捨てられねーためにはどうすりゃいーんだろうか、と考えてしまってるといいなぁ。
続きのらぶらぶはれんちはまた今度…かけたら…かきたいなぁ、と…(笑)

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -