静かな居場所



少しした後、細い路地に差し掛かったところで、悠生は趙雲達と逸れてしまう。
と言うのも、転んでしまった子供を見つけて思わず手を貸していたら、皆の姿を見失ってしまったのだ。

知らない場所に取り残されてしまって、悠生は途方に暮れた。
城への帰り道は分かるのだが、一人で勝手に戻っては趙雲に迷惑をかけてしまうし、呆れられるかもしれない。
仲間と逸れたら、あまり動き回るべきではない…、相手が自分を捜してくれる可能性があるのならば、その場でじっとしていた方が合流出来る確率が上がる。


(それなら…大通りに戻った方が良いかな。こんな人気の無いところに居たら…)


そんな心配は突然、現実のものとなり、後ろから捻りあげるように手首を掴まれてしまって、悠生はびくりとした。
がらの悪そうな男が数人、悠生を見下ろしている。
掴まれた手首を強く締め付けられて、痛みを感じた。


「おいガキ、随分と小綺麗な服を着ているじゃねえか!」

「えっ!?」

「痛い目に遭いたくなかったら、素直に言うことを聞くんだな」


悠生が普通の民とは異なることに気付いた男達は、よからぬことを企んでにやにやと嫌らしく笑っている。
顔が女のようだとか、商売に利用出来そうだとか、馬鹿にしたような酷いことを言われた。
しかも、目ざといことに、首に下げていた翡翠の指輪を見付けた男達は、乱暴な手つきで紐をひきちぎった。


「や…やめてください!それは、美雪さんの…!」


美雪に託された形見を、赤の他人に渡してなるものか。
しかし、いくら悠生が抵抗しようも、相手は動じる様子もない。
隙をついて逃げ出すことは出来たかもしれないが、こうなっては、指輪を取り戻すことは難しいだろう。

助けを求めようと、趙雲の名を叫ぼうとしたが、悠生は喉元まで出かかっていた言葉を飲み込んだ。
…こんなことで迷惑をかけて、がっかりさせたくない。
だけど、ここで男達の好きにさせては、後でもっと迷惑をかけることになる。


(趙雲どの……!)


声には出せなかったけれど、心の中では、声が枯れそうなほどの大声で趙雲を呼んだ。
ほとんど同時に、男達が吹き飛んで民家の壁に激突したが、目をつむっていた悠生は何が起きたのかはすぐには分からなかった。


「痛い目に遭いたくないのなら、今すぐ立ち去れ」


地を震わせるような低い声で、男達を威嚇する。
悠生が顔を上げると、鋭い目つきが印象的な男性が、色鮮やかな布を手にこちらを睨んでいた。
常人とは思えない威圧的な態度に震え上がった男達は、悠生の手を離すと、何も言わずに逃げ去って行った。
翡翠の指輪は、その場に残されていた。


 

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