静かな居場所



その日は趙雲が城下の視察に付き合ってほしいと言うので、悠生は久しぶりに城の敷地外へと足を運んでいた。
視察も立派な仕事だから、一から学ばなければならない。
同行者は彼の部下が数人、大人しくその後ろに続く悠生は、前を行く趙雲の背をただ追い掛けるだけだった。


(趙雲どのの背中を見ていると、なんだかゲームをしているみたい…)


見慣れた後ろ姿は、手を伸ばせば触れられるところにある。
これまでにも、本当に背中を触ってしまって趙雲を不思議がらせることがあった。

この世界は慣れ親しんだゲームとは違うのだと理解していても、悠生はたまに、現実と夢が混同して分からなくなってしまっていた。
もし、この世界が夢だとしたら…いつか、目を覚ます時がくるのだろうか。
大好きな阿斗の傍から、離れなければならなくなったら、その時自分は、平気でいられるだろうか。

不安は尽きることがない。
悠生はたった一人の友達の存在だけで、生まれ育った現代よりも三国の時代に生きたいと願っているのだ。


(こんなこと、誰にも言えないけどね。言うつもりもないけど…)


趙雲は気さくに民に声をかけ、世間話をするようにして人々の日常に溶け込んでいる。
困ったことはないか、トラブルが起きてはいないか、親身になって話を聞いてくれる趙雲は、民にも人気があるようだ。
いつの間にか小さな子供達が傍に寄ってきて、趙雲とお話をしようとしている。
彼が子供好きであることは有名だが、まるで保父を見ているようで、嬉しそうな顔をする趙雲が可愛く思えて、悠生はこっそりと笑った。
あんな表情、きっと阿斗にも見せない。

趙雲の素顔を見ることが出来る子供達が少し羨ましくなって、悠生は自然と視線を逸らしていた。
甘えたいなら自ら歩み寄れば良いのだろうが、悠生にはもともと、積極性が無かった。
そっと背に触れて、彼の存在を感じたところで、何かが変わる訳でもない。


 

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