優しさが照らす



「咲良さん!?だ、大丈夫ですか!?」

「すみません…直虎さんが、優しいから…お母さんに、会いたくなってしまって…、会えるはずがないのに…」


若い女性に対して失礼な話かもしれないが、それまで困り顔をしていた直虎は、柔らかく微笑んで、涙を流す咲良の頭を撫でた。


「私、ずっと娘が欲しかったんです。この瞬間だけでも、咲良さんが私の娘になってくれるなら、嬉しいな…なんて」

「直虎さん…」

「私は頼りないですけど、何かあったら言ってくださいね。咲良さんの寂しい気持ち、少しでも無くしたいです」


そんなことを言われたら、もう、涙を止めることなんか出来ない。
確かに辛かったが、それ以上に嬉しかった。
咲良が声を押し殺して泣くと、直虎は優しく背を抱き、あたたかさで包んでくれた。


(お母さん…私、頑張るから…絶対に、後悔しないように…)


…自分が、これからどんな道を歩むことになるかは分からない。
それでも精一杯、強く生きなければならないのだ。
無駄に命を散らしては、それこそ、両親に申し訳が立たないから。
出来れば最後の時は、笑っていたいと思う。
…ただ、母親になってくれると言う直虎の前では、子供のように泣いて思い切り甘えたいと、恥ずかしいことを思ってしまった。




「…どうもありがとうございます、直虎さん。随分、お嬢さんに気に入られたようですね」

「あっ、左近さん。出発はもう少し待ってくれませんか?今、咲良さんを起こすのは…」

「大丈夫ですよ。後少しばかり待機するって話です」


直虎の膝枕で眠る咲良は、先程よりずっと落ち着いているように見える。
彼女が月のものに苦しみ、体調を崩していることは左近も知っていたが、あえて口を出すことはしなかった。
きっと彼女を困らせるだけで、適切な対応など出来たとは思えない。
だからこそ、直虎が援軍に来てくれて助かったのだ。
微妙な立場にある咲良には、直虎のように包容力のある、心を許せる存在が必要だ。


(悔しいですが、俺じゃ、お嬢さんの母親役にはなれませんからね。それに、いくらお嬢さんが強がりだったとしても…男の膝枕じゃろくに眠れやしない)


安心しきった無防備な寝顔をさらす咲良の髪を撫でる直虎は、本当に母親のようだった。
左近が小さく、「羨ましいですね」と呟くと、直虎はかあっと顔を赤くする。
膝を借りる咲良が羨ましいのではなく、膝を貸す直虎が羨ましかったのだが…反応が面白かったので、左近はにやりと笑うだけで、訂正をすることはなかった。



END

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