この世界の宝物



遠呂智軍の気配が去った反乱軍本陣に、思わぬ訪問者が現れた。
関平を驚かせたのは、その人物が、昔から顔をよく知る弟であったからだ。


「関索!?何故、お前が此処に…」

「兄上!お久しぶりでございます!」


まだあどけなさが残る末の弟・関索が、拱手し深々と頭を下げていた。
柔らかい表情も、鮮やかな色の花飾りがよく似合うところも以前と変わらなかった。
容赦無く打ち付ける冷たい雨の中、最期の別れを済ませたその日のことを、今でも忘れたりはしない。


「父上の命により、兄上のお傍で力になるようにと仰せつかまつりました。父上は訳あって遠呂智軍に従っておりますが、心は常に、共にあると」

「そうだったのか…関索、お前が居れば拙者も心強いぞ」


血の繋がらない兄に距離を置くこともせず、関索は何の隔たりもなく接してくれた。
与えられた居場所にすんなりとおさまることが出来たのは、この弟の存在があってこそである。


「なあ、関索。拙者は…」


今も思うのは、咲良と悠生のこと。
悠生は劉備の嫡男・阿斗に寵愛を受けているが、その姉の咲良は呉に縁のある人物だという。
姉弟が遠く離れ別々に生きている理由を関平は知らないが、蜀と呉の仲がこじれたままでは、二人の距離も一向に縮まらないだろう。


「拙者は、もう一度、呉と共に戦うことが出来たら良いと思うのだ」

「…兄上は、呉を怨んではいないのですか?」


黙って、首を横に振った。
関索は驚いたように目を丸くしていたが、少しして嬉しそうに微笑みを浮かべた。


「父上も、同じことを」

「本当か?」

「ええ。今は身動きが取れる状況ではないが、いつかは再び呉と共に歩みを進めたい…そう願っておられました」


勿論、呉に受けた仕打ちを忘れた訳ではない。
それでも遠呂智を倒すには、呉の力が必要だ。
関平は、そして関羽は、過去よりも未来を選んだのだ。
それに・呉との関係が良好になったら、咲良と悠生が再会出来る可能性も増すはずだろう。


「…後程、兄上に紹介したい女性が居るのです。どうか、会っていただけますか?」

「はは、関索が改まって女性を紹介したいと言うのは珍しいな。ああ、勿論だ」

「ありがとうございます!彼女は私の恩人で…力を与えてくれる大切な存在です。いつか、兄上が懐かしまれていたお方も、私達に紹介してくださいね」


大切なお方なのでしょう?と言われてほとんど同時に、悠生と咲良の顔が思い浮かび、関平は内心苦笑していた。
力を与えてくれる…本当に、弟が言うその通りだった。
関平にとっては、姉弟のどちらも比べられないほどに大切で、特別な存在なのだ。
なればこそ、大事な二人が安らかな暮らしを取り戻せるように戦うのが、自分の新たな役目なのかもしれない。


「そうだな。早く関索にも会ってもらいたいよ」

「ええ、その日を楽しみにしていますね!」


今は…、自分がすべきことを全うするだけだ。
この戦いの果てに、平和な世を取り戻した時、咲良と悠生が共に、涙ではなく笑顔を浮かべることが出来たら…それだけで、関平の心は満たされるのだ。



END

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