この世界の宝物



「やはり、拙者が頼りなかったためでしょうか…守ると決めたのに…拙者には咲良殿の不安を拭うことは、出来なかった…」


行き場の無い後悔を隠すことすら出来ず、関平は縋るものを求めるようにぎゅっと胸を押さえた。
ちょうど胸の真ん中に、悠生から預かったお守りの指輪が下げてある。
翡翠玉を失い、輝きを無くした指輪だが、関平にとっては悠生との繋がりを感じるための大切なものだった。


「関平殿、聞いてください。咲良殿は、貴方の重荷になりたくないと言っていました。そして"大切な存在が増えるのが怖い"のだと、それが彼女のまことの心なのです」

「大切な…存在…?」

「恐らく彼女が恐れていたのは、親しい人との別れであったのでしょう。だから、貴方の傍を離れることを決めたのです。今ならまだ、傷は浅く済むからと」


何が、どうして、重荷になると言うのだ。
今、咲良が此処に居たらそんな的外れなことを口にした彼女を責めてしまいそうだ。
関平は咲良の存在に力を与えられていた。
優しく笑ってくれる彼女に、荒んだ心も休まった。
悠生のことが大切だから…それだけが理由ではなく、関平は素直に彼女を大事に思っていたのだ。
友人として、一人の人間として。

目が届くところに居て、守られていてほしいのだと、それで自分は安心出来るのだと、はっきり言うべきだったのだろうか。
そもそも、そのような身勝手なことを口に出来るはずがない。
彼女は強く勇ましい星彩とは真逆の大人しい女性だったが、内面までもが弱々しい訳ではなかった。


(それでも、涙を見せられると胸が痛んだ。彼女によく似ている悠生殿が、この世界の何処かで、同じ時に泣いているような気がして…)


いつか悠生と再会する時、咲良が隣に居る光景を当たり前のように想像していた。
むしろ関平の方が、何でも受け入れてくれる彼女に依存していたかのようだ。


「光秀殿…拙者は咲良殿に甘えていたのです。きっと彼女の目には、情けない姿ばかりが映っていたことでしょう」

「もし、その通りだったとしても…咲良殿は貴方の人間らしいところを好いていたのだと思いますよ。関平殿も、同じ気持ちだったのでしょう?」

「…はい。咲良殿は…不思議な人でした。あのようなお方が戦場に立つべきではない」


光秀も微笑みながら、同意するように深く頷いた。
関羽とは似ても似つかない穏やかな物腰の男が、まるで父上のようだと思った。
それは彼が咲良のことを誰よりも気にかけて、娘のように扱っていたからだろう。
光秀もまた、表情には出さないが、寂しい想いを内に秘めている。

関平の役目は、咲良を守り戦うことではなくなってしまった。
彼女を捜しに行くべきなのかも分からない。
だが、もし再びまみえることがあったとしたら、別離への不安を抱かなくて済むぐらい、傍に居てそして守りたいと…関平は強く思った。


 

[ 79/95 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -