優しい夢
「いや…確かにその通りだ。悠生殿と居ると、月が綺麗に見える」
「え…それ、は…」
趙雲もまた、悠生と同じように月ではなく、しっかりと目を見て呟いたのだ。
それが仕返しのつもりだったら、意地悪だ。
実際に言われてみると、想像以上に衝撃的だった。
気恥ずかしくなって、悠生が顔を赤くすると、趙雲は困ったように微笑した。
「今夜は貴方が眠るまで、傍に居よう」
「本当ですか…?でも、もし、今日も眠れなかったら…?」
「私が子守が得意なことを知っているだろう?」
眠りたいと思うぐらい甘やかしてあげよう、と言われては、悠生も素直に横になるしかない。
子供扱いは嫌、だなんて言えるはずもなく、甘えたいという気持ちが膨れ上がっていく。
窓を閉めてしまえば、もう月が見えない。
悠生が改めて、傍に居てほしいと願ったら、趙雲は殊更嬉しそうな顔をしていた。
「次に月見をする時は、きちんと準備をして…阿斗様もお呼びしよう。だから、一人で夜更かしはしないように」
「はい…阿斗が居たら、もっと楽しいですね」
今夜のように、趙雲と二人きりだったら、月よりも趙雲のことばかり見てしまいそうだ。
月の光に照らされた趙雲は綺麗でかっこいい…そんなことを思って勝手に照れてしまって、悠生はきゅっと目をつむった。
趙雲はそっと髪を撫でて、悠生を寝かしつけようとする。
「お休み、悠生殿」
…好きだな、と思った。
優しくて頼りがいのある、趙雲のことがとても好きだ。
言葉にしたら、趙雲は先程のように驚くだろうか…それとも笑いながら、私も好きだと返してくれるか。
嫌われていないなら、どっちでも良いかな、と安心しきっている悠生は、ゆっくりと眠りの中に落ちていった。
ほんの一瞬、額に触れた、指ではないあたたかくて柔らかい何かに、気付くことは無かった。
END
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