清らかな夜



冷たい夜風を感じる、開け放たれた窓をちらりと見た周泰は、訪ねた理由を明かさずに、別の問いを投げかけてきた。


「…落涙様…眠れないのですか…?」

「あはは、ご心配いりません。ちょっと目が冴えているだけですよ。でも、ありがとうございます」

「……、」


よく気が付く人だ、と咲良は少し後ろめたい想いをした。
きっといつも孫権のことを気にかけているから、周泰は他人の感情を察することが得意なのだろう。
笑ってごまかそうとしても、周泰の表情は険しいままである。


「…俺は…黄蓋殿と…酒を飲み交わしていました…」

「周泰さんが?黄蓋様がお招きすると言っていたのは他のお方でしたが…」

「…偶然…誘われたので…」


そうは言うが、周泰からは酒の匂いがしない。
お酒の席に誘われて、手を付けないということがあるのだろうか。
ただでさえ周泰は酒乱の孫権と渡り合えるほどの酒豪なのだ。

咲良が首を傾げると、周泰は何処からともなく布を取り出し、その中に包まれていた白い花びらを見せた。


「これは…?」

「…昨晩…俺の邸の…庭に咲いていたものです…落涙様は…花が好きだと…本当は貴女に…花をお見せしたかったのですが…」


美しく咲いた純白の花を、咲良にも見せようと考えた矢先、朝になってその花は散ってしまったそうだ。
強い風が吹いた訳でもないのにと、周泰は肩を落としたのだと言う。
それでもこうして汚れていない花びらを集めた周泰は、どうしても咲良に花を見てもらいたいと思った。
邸を尋ねようとしていた矢先、黄蓋に誘われたため…、彼は酒に付き合いながらも、自分は酒を飲まず早々に切り上げて咲良の元を目指したのだろうか。


(なんだか周泰さん、可愛い…)


咲良を喜ばせようと思って、花びらを集めたのだ。
日頃からいろいろと気にかけてくれていた周泰だが、その好意が嬉しくて、咲良は彼の手から布を受け取り、礼を言った。
咲良が笑うと、周泰は何故か、困ったように目線を逸らした。
からかうつもりは無かったのだが、彼の反応に少し悪いことをした気になった咲良は、手にした花びらに目をやった。


「月下美人…でしょうか、よく似ています」

「…月下…美人…」

「名前の通り、美しい女性に似合いそうな華やかな花ですね。私には少し不釣り合いですが…」


首を傾げる周泰がまたもや可愛く見えてしまう。
花びらを見ただけでは、はっきりとは答えられないが、色合いや形から月下美人だと見当をつけた。
恐らく、口数が少ない周泰は他人に尋ねることをせず、花の名も知らずに愛でていたのだろう。


 

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