愛を宿す瞳



「趙雲どの、あの、ちょっと離してください…く、苦しいですし…」

「悠生殿…私を軽蔑するかい…?貴方に嫌いだと言われては…私は…」

「嫌いになんて…そんなこと」


ゆっくりと体を離していく趙雲に、悠生は安心させようと微笑みかけた。
彼は酔ったせいで、感情が不安定になっているのだろう。
白粉の香りを嫌悪しているぐらいだ、趙雲が白粉をつけるような華やかな女性とどうにかなるはずがない。
そう思ったら気が楽になり、懐紙を取り出した悠生は、趙雲の手や首筋についた白粉を、丁寧に拭っていく。
趙雲はじっとしていたが、瞬きもせずに見つめられていることは分かった。
その眼差しが熱っぽく感じるのは…、やはり酒のせいだろうか。


「もう大丈夫です。白粉の匂いはしませんよ」

「しかし、まだ…」

「本当です。いつもの趙雲どのの良い香りがします」


それは嘘に違いなかったが、服を着替え体を洗わなければ完全に匂いは取れないし、こんな夜中にはどうにもならないと思い、悠生は出まかせを言ったのである。
やはり判断力の鈍っていたらしい趙雲は、悠生の体を抱き込み、そのまま寝台に倒れ込んだ。
思わず声をあげそうになるも、趙雲の唇が耳元に近付き、やけに低く甘ったるい声で「ありがとう」と囁いたために、悠生はドキドキして何も言えなくなってしまう。
そのうち、趙雲の寝息が聞こえてきて…悠生はしっかり抱きしめられたまま、彼の鼓動の音を聞いていた。


(趙雲どのでも酔っ払うんだね…だけど…嫌じゃなかったよ)


完璧だと思っていた男にも、こういった弱さがある。
誰にも見せないであろう姿を、悠生には見せた、そのことが嬉しかった。

悠生は趙雲に寄り添うようにして、そっと目を閉じた。
まだ、微かに白粉の香りは残っていたけれど、明日になればそれも薄れているはずだ。
その時には、趙雲の苦しみも軽くなっていると良い、そう思いながら、悠生は眠りに落ちていった。



END

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