誠実な愛言葉



「この紫色の花、竜胆ですよね?根っこの汁が凄く苦いんだって、前に本で読みました」

「ああ、薬にもなるが竜の胆よりも苦いと言う」

「ずっと、趙雲どのに似合う花だって思っていました。名前も、その花言葉も…」


趙雲が以前、漢中攻めの働きにより、劉備に「趙雲は度胸の塊だ!」と褒められたことを誰かに聞いたのだろう。
一身これ胆なり…、そのような名誉な言葉を受けたことを。
悠生は風に揺れる紫色の花を指先で撫でていた。
竜胆が似合う、そう言われたばかりなので、悠生が目の前の花を愛でていることを少々こそばゆく感じる。


「竜胆の花言葉には、正義感だとか、誠実…そういったものがあります」

「花に込められた意味は一つでは無いのだな。だが…どちらも良い意味で安心した。悠生殿は私を誠実な人間だと思ってくれている、そういうことだろう?」


悠生の素直な想いを感じ取り、趙雲は珍しくも自惚れていたのかもしれない。
趙雲の都合が良い解釈に悠生は一瞬言葉に詰まったようだが、視線は紫の花に注いだまま、囁くようにして、心のうちを語った。


「"あなたの悲しみに寄りそう"…そんな意味もあるみたいです」

「悲しみに?」

「趙雲どのはきっと、僕が悲しいときは、一緒に居てくれるでしょう?だから…」


その台詞は、阿斗にこそ当て嵌まるのではないかと、趙雲は悠生の言葉が自分に向けられていることを意外に思ったが、悠生がそっと見上げてきたためにどきりとしてしまう。


「ずっと、傍に…居てほしいです。阿斗と趙雲どのが居てくれたら、僕は…」

「悠生殿…心配することは無い。私も阿斗様も決して、貴方に悲しい想いはさせないよ」


阿斗の名前が出たことに安堵する半面、残念に思う自分が居ることに趙雲は困惑した。
悠生は趙雲の答えが余程嬉しかったのか、少し頬を染めて笑った。
そんな彼を可愛らしいと思うのは、傍で成長を見守る者にとって当たり前の感情である…、不思議なことに、そう断言しきれないのだ。


「…庭師に願い、いくつか摘んでもらおう。悠生殿の部屋に飾ると良い」

「えっ、良いんですか?」

「貴方に悲しい想いをさせたくはない、そういうことだ」


竜胆の花を見た時には、私のことを思い出してほしい。
趙雲の複雑な心がどこまで伝わったか定かでは無いが、悠生は穏やかな表情で「はい」と返事をする。
彼の眼差しを受けるだけで感じる胸の高鳴りを認識しながらも、悠生に惹かれ始めている事実に、趙雲はまだ気付いていなかった。



END

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